寝たきりを招く「転倒」リスクは、「ぬかづけ」で減らす
第3回 意外に知らない転倒スポット、転倒の「外的要因」を正しく理解する
柳本 操=ライター
将来の寝たきりにつながる危険性のある「転倒」。50~60代以降の転倒は身体機能が衰えたサインだ。特集でこれまで紹介してきたように、「転びにくい」体にするには、運動習慣を実践し身体機能の低下に歯止めをかけることが重要となるが、それだけでは十分とはいえない。運動能力が高い人でも“転びやすい場所”では見事に転ぶ。転倒につながる「外的要因」の存在を認識しておくことも、転倒予防には重要だ。

高齢化が進む中で、大きな問題となっている転倒。転倒をきっかけに骨折し、長期入院を余儀なくされ、そのまま寝たきりになる――。転倒により健康な生活が著しく損なわれるケースは後を絶たない。
最近は新聞、テレビなどでも取り上げられる機会が増え、転倒の“怖さ”が徐々に認識されるようになってきた。とはいえ、転倒により大きなケガなどをしていないと、「まだ大丈夫」「私は平気」などとつい軽く見てしまいがちだ。私たちは、転倒によるリスクを正しく理解した上で、50代、60代といった若い時期から転倒対策に取り組む必要がある(詳しくは第1回を参照)。
前回、転倒が起きる要因には「内的要因」と「外的要因」があることを解説した。内的要因とは、身体機能の低下や、病気・薬の使用などにより“転びやすくなる”ことを指す。身体機能の低下は、加齢だけでなく、日々の運動不足が大きく関係する。運動習慣を実践し、「身体機能の低下」に歯止めをかけ、「転びにくい体」を作ることが重要になる(詳しくは第2回を参照)。
だが、日々の運動を実践して、転びにくい体になったとしても、それだけでは十分とはいえない。運動能力が高いアスリートでも、氷結した道路の水たまりに気づかずに足を踏み出せば、ものの見事に滑って転ぶ。そう、転倒を防止するには、こうした「外的要因」にも注意を払う必要がある。
実際のところ、読者の皆さんも、運動能力が十分にあった若い頃でも、氷結した道路やぬれたタイルなどで転んでしまった経験は少なからずあるのではないだろうか。若い頃ならちょっと擦り傷を作るくらいで済んだかもしれないが、高齢になると、骨折するなどしてその後の人生を大きく左右することになりかねない。
転倒予防のエキスパートである東京健康リハビリテーション総合研究所所長、日本転倒予防学会理事長の武藤芳照さんは、「私たちの身の回りには、転倒を起こしやすい『外的要因』が予想以上にたくさん存在します」と警告する。今回は、私たちが注意すべき外的要因について武藤さんに話を聞いていく。これらリスクの存在を正しく認識し事前に対処することで、転倒リスクは確実に少なくできる。さらに、転倒リスクを下げるために食事面で注意すべきことも解説しよう。
注意すべきは「ぬ・か・づけ」
武藤さんたちは、実際に起こった数多くの転倒・転落事故の症例を分析している。その結果から、転びやすい場所には“ある特徴”があるという。
「『ぬ・か・づけ』に注意することが大切です。『ぬ』はぬれているところ、『か』は階段や段差のこと、『づけ』は片づけていないところのことです。これらに該当する場所は転びやすいのです」(武藤さん)
「私たちの身の回りのどこに『ぬ・か・づけ』が潜んでいるかを日常からチェックしておくことが大切です。そして、『ぬ・か・づけ』に配慮して住居などの環境を整備することも大切になります」(武藤さん)
では、具体的に身の回りにある「ぬ・か・づけ」ポイントをチェックしていこう。