口の中に無頓着な人は自分で寿命を縮めている
第1回 動脈硬化に糖尿病…諸悪の根源、歯周病が全身に与える脅威とは
田中美香=医療ジャーナリスト
成人の8割は歯周病で、日々の歯磨きや歯科医院での定期的なメンテナンスが大事――。そう分かっていても、実際にはなかなか実践できていない人が多いのが現状だろう。だが、口の中のケアを怠ると、動脈硬化や糖尿病、認知症、さらには膵がんの発症リスクまでも上がりかねないことをご存じだろうか。歯周病は、われわれの健康長寿を静かに脅かす存在なのだ。本特集では、寿命を縮める歯周病の怖さと、口腔ケアのポイントや最新情報をまとめる。
歯周病になると、歯肉が腫れて出血する程度では済まない!
虫歯で歯が痛くて歯科医院に走ることはあっても、痛くないのにわざわざ歯科医院に行く人はそう多くないだろう。実際、歯科健診を先延ばしにしないで受けているのは、日本人の47.3%のみ。過半数の人は歯科健診を先延ばしにしていることが、日本歯科医師会の調査で明らかになっている(図1)。
しかも、4人に3人にあたる75.7%が、「もっと早くから歯の健診や治療をしておけばよかった」と、先延ばしにしたことを後悔しているという。いかにインプラントや義歯の技術が進歩しても、一度失った本来の歯は元に戻らない。そんなことは分かっていても、痛い目にあわなければ重い腰を上げて歯科医院に行かないのが多くの人の心理のようだ。

口の中にすむ「口内細菌(こうないさいきん)」のエキスパート、鶴見大学歯学部探索歯学講座教授の花田信弘さんは、なかなか歯科健診に足が向かない状況について、「実にもったいない」と漏らす。歯科のプロに見てもらわなければ、口の中の健康が崩れても気づきにくいからだ。
「口の中で起こる病気は、激痛を伴う虫歯だけではありません。むしろ痛みがないまま水面下で悪化していく病気こそ、大事に至る前に察知して対処することが大切です。その病気とは、日本人の成人の8割がかかるとされる『歯周病』です。日本人が歯を失う最大の原因は、虫歯ではなく歯周病なのです」(花田さん)
歯周病を、「加齢現象だから仕方ない病気」「歯肉が腫れて出血する程度の病気」と軽く考えている人はいないだろうか? 歯周病になって運が悪く歯を失うことになっても、「入れ歯やインプラントがあるから大丈夫では?」と思う人もいるかもしれない。だが、「歯周病は、口の中の問題にとどまらず、命に関わる大病の発症リスクまで高める怖い病気だということを知っていただきたいのです。しかも歯周病は、予防できる病気でもあるのです」と花田さんは強調する。
「歯周病になれば、寿命が縮まるといっても過言ではありません。口の中の手入れ次第で、寿命を延ばすこともできれば、縮めることもできてしまうのです」(花田さん)
では、花田さんが話す「大病の発症リスク」とは何か、具体的に聞いていこう。