がんの5割は予防できる!少しの知識で「がんリスク」が変わる
第1回 科学的根拠に基づく効率的な「がん予防」のススメ
二村高史=フリーライター
今や、2人に1人はがんに罹患する時代。これだけ「高い確率」でかかる可能性のあるがんを少しでも遠ざける方法はないだろうか。がんは老化現象の1つで、遺伝的要因も関係している。しかし、生活習慣を改善することで、がんになる確率を下げることは可能だ。男性の場合、最大5割も予防可能だという報告もある。本特集では、がん予防のエキスパート・津金昌一郎さんに、がんのリスクを下げるポイントを聞いていく。
がんは誰もがかかりうる病気、では避けることはできるのか

「がん」にはなりたくない、というのは誰しも共通に願うことだ。
50歳、60歳と年齢を重ねてくると、職場の同僚や知人で「がん」になった人、あるいは親ががんで亡くなったという人の話を耳にする機会が増える。さらに、がんで亡くなった著名人などの話を聞くと、「自分は大丈夫だろうか」と不安に思う人も多いだろう。
国立がん研究センターのデータによれば、一生のうちにがんと診断される人は男女ともに「2人に1人」と推計されている。今や、がんは誰もがかかりうる病気となっている(下図)。

人生100年時代といわれるほど長寿の時代になったからこそ、がんにかかる人が増えているという事情もある。詳しくは後述するが、がんは老化現象の1つ。食生活の改善や医療の進歩などに伴って、脳卒中や心筋梗塞、感染症などの病気で亡くなる人が減り、“がんになりやすい”年齢まで長生きする人が増えたのが大きな理由である。つまり、平均寿命が延びたために、結果的にがん患者が増えたわけだ。
歳をとることは誰も防げない。そして、がんは遺伝的要因が関係していることも知られている。遺伝となれば、自分では避けようがないと誰もが思うだろう。
では私たちは、がんのリスクを下げるためにできることは何かあるのだろうか。
国立がん研究センター 社会と健康研究センター センター長の津金昌一郎さんは、「がんに絶対にならないという方法はありません。しかし、がんの罹患率・死亡率の年次推移や地域差などの統計データや、介入研究や観察研究の結果から、がんは後天的な環境要因の影響を受けることが分かっています。がんは予防可能で、生活習慣を見直すことでがんに罹患するリスクを下げることができるのです」と話す。
津金さんは、『がんになる人 ならない人』(講談社)や『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』(祥伝社新書)などの著書を数多く手がけるがん予防のプロフェッショナルだ。
「私がいつもお伝えしているのは、『確率的に少しでもがんにかかりにくい生活をしましょう』ということです。がんになる確率が30%よりも10%のほうがいいですよね」と津金さん。確かに、食事の内容を見直したり、運動習慣をつけるといった“実行可能な”対策でリスクを下げられるなら、やらない手はないだろう。
科学的根拠に基づく対策は“効率がいい”
だが、世の中には、がん予防に効くといわれる情報があふれている。摂取したほうがいい食材や避けるべき食材から民間療法まで、情報は多種多様だ。なかにはほとんど迷信としか思えないものもある。この中で私たちはどのような対策を選べばいいのだろうか。
「残念ながら、日本人はいまだに科学的根拠(エビデンス)に乏しい情報に振り回されていると感じます。がん予防の情報は玉石混交です。多くの『石』のなかから『玉』を探すには、多くの人々を対象として病気の要因を探る『疫学研究』から導きだされた科学的根拠が重要となります。疫学研究により、がんにかかる人の食事や運動習慣の傾向などを精査することで、統計学的に意味のある結論が得られるのです」(津金さん)
こういう話になると必ず出てくるのが、身近な事例を基にした反論だ。「『うちのおじいちゃんはヘビースモーカーだったのに長生きしたから、実は喫煙はがんとは関係ない』などという人がいますが、そうした“特殊なケース”で判断するのは避けるべきです。疫学的な研究結果から見れば、それぞれの生活習慣がどういう影響を及ぼすかが統計学的に分かるのです」(津金さん)
そして津金さんは、科学的根拠を基にした対策は、実は“効率がいい”のだと話す。「根拠がある、つまり効果が期待できることが確認されている対策ですから、根拠がない対策より確実に予防効果は高くなります。科学的に分かっていることを優先的に実践して、“効率的に予防していこう”という考えです」(津金さん)。
そこで本特集では、科学的根拠に基づくがんの予防法について、津金さんに詳しく聞いていく。第1回となる今回は、生活習慣の改善により本当にがんのリスクを下げられるのか、そして対策の効果について津金さんに聞いていこう。
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