ED、しわの原因、化学物質…なのにタバコを吸うのはなぜ?
肺がん(第3回)
近藤慎太郎=医師兼マンガ家
自助努力をしている人としていない人では、健康格差はもちろん、ペナルティとインセンティブの相加作用によって、金銭的な格差もどんどん拡がっていくでしょう。
こうしたことを踏まえた上で、具体的な方法について解説しましょう。
大事なことは、禁煙をする理由を明確にすることです。世間で騒がれているから何となく禁煙を始めても長続きはしないはずです。きっとまた、何となく吸い始めてしまう可能性が高い。
子供が生まれたから。お金を貯めて旅行に行きたいから。肌のハリを取り戻したいから――。
何でもいいので、自分にとって一番大切なものに焦点を合わせましょう。
そして禁煙のためには、「タバコの煙をかがない」「タバコを目にしない」という、環境を整備することが何よりも肝心です。もし家族など、同居している人がタバコを吸っているのであれば、一緒に禁煙に挑戦することが前提条件になります。相手にも禁煙についての理解を深めてもらい、協力を仰ぎましょう。
次に、禁煙によって節約できた金額を、エクセルなどの表計算ソフトや、スマートフォンのアプリなどで記録していくこともオススメです。禁煙を手助けするアプリは、無料でいくつか手に入ります。努力の結果が金銭的なメリットとして確認できると、やる気が長持ちします。食べたものを記録するだけというダイエット方法がありますが、それと似たような理屈です。
ある程度お金が貯まったら何か欲しいものを買うのもいいでしょう。収支の金額が減ると、「また貯めなきゃ!」と思って頑張れます。
ただ、繰り返しますがニコチンの依存性は高い。日常生活の工夫や心がけだけで乗り越えようとしても難しいケースもあるはずです。
その場合は禁煙補助薬を使うのが効果的です。
現在のところ、利用可能な禁煙補助薬には下の3種類があります。
それぞれ特徴や注意点が違うので、医療機関や薬局で相談しながら、自分の体質やスタンスに合ったものを試してみましょう。
いずれも効果はありますが、禁煙に手こずる場合は、どこかのタイミングでニコチンガムを試しておくのがいいでしょう。たとえうまく禁煙できたとしても、残っているニコチンガムは捨てないでバッグなどに入れて携帯するようにしましょう。
そうすれば、何かの拍子にタバコを吸いたくなっても、手元にあるニコチンガムを噛んで気持ちを落ち着かせることができます。「禁煙に失敗してしまった」という最悪の結果を避けることができる。ニコチンガムには、そんなゲートキーパーの役割を持たせましょう。
電子タバコは禁煙に役立つ? 役立たない?
では、最近話題の電子タバコはどうでしょうか。
残念ながら、電子タバコが世の中に広まってから、まだそれほど時間が経っていないので、結論を出すために十分なデータが蓄積されていません。
そのため、はっきりとしたことはまだ誰にも分かりません。
フィリップモリス製の電子タバコ「IQOS(アイコス)」の煙を普通のタバコの煙と比べてみたら、ニコチンの量が普通のタバコの84%だったという報告はあります(*17)。
仮にほかの有害物質についても同様の傾向があるならば、普通のタバコを吸うよりはましとは言えるでしょう。一気に禁煙することに抵抗がある人は、まずリハーサルの気持ちで電子タバコに替えてみるのも一つの手かもしれません。
ただニコチンが少ないからといって、その分、多く吸ってしまえば何の意味もありません。電子タバコはあくまで禁煙に至るまでのワンステップ、という認識が必要です。
最後に、日本循環器学会、日本肺癌学会、日本癌学会、日本呼吸器学会が共同で編纂した「禁煙治療のための標準手順書」には次のような趣旨の言葉があります。
再喫煙は失敗ではなく、貴重な学習のチャンス。
再喫煙は禁煙に至るまでの通常のプロセス。禁煙に成功した人の多くは、成功までに少なくとも3~4回の禁煙チャレンジを経験している。禁煙は経験すればするほど、上達する。
何度か禁煙に失敗したからといって、落ち込んだり、必要以上に自分を責めたりしなくてもいいのです。みんなが通る道だと思って、一歩一歩進んで行きましょう。
この記事は、日経BP社の『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』(近藤慎太郎著、312ページ、税込1512円)からの転載です。
*1 Ikeda N et al. What has made the population of Japan healthy? Lancet 2011;378:1094-105.
*2 Wakai K et al. Tobacco smoking and lung cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J clin Oncol 2006; 36: 309-24
*3 Wakai K et al. Decrease in risk of lung cancer death in Japanese men after smoking cessation by age at quitting. Cancer Sci 2007;98:584-9
*4 Tobacco smoke and involuntary smoking. IARC Monogr Eral Carcinog Risk Hum. 2004;83:1-1438
*5 日本呼吸器学会HPより
*6 平成9年度厚生省心身障害研究「乳幼児死亡の防止に関する研究」総括研究報告
*7 平成27年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告
*8 佐川元保他.肺がん検診の有効性評価:厚生省藤村班での 4つの症例対照研究.肺癌 2001;41:637-42
*9 全国がん(成人病)センター協議会加盟施設における5年生存率(2006~2008年診断例)
*10 National Lung Screening Trial Research Team. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med 2011; 365:395-409
*11 CT検診精度管理ガイドライン
*12 Pijpe A et al. Exposure to diagnostic radiation and risk of breast cancer among carriers of BRCA1/2 mutations:retrospective cohort study(GENE-RAD-RISK). BMJ 2012;345:e5660
*13 Esteva A et al. Dermatologist-level classification of skin cancer with deep neural networks. Nature 2017;542:115-8
*14 厚生労働省・禁煙支援マニュアル
*15 Castelo-Branco C et al. Facial wrinkling in postmenopausal women. Effects of smoking status and hormone replacement therapy. Maturitas 1998 ;29:75-86
*16 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_y/robert.pdf
*17 Auer R et al. Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes: Smoke by Any Other Name JAMA Intern Med 2017;177:1050-2
医師兼マンガ家 日赤医療センター、亀田総合病院、クリントエグゼクリニックなどで勤務
