日経グッデイ

医者がマンガで教えるがん検診の受け方、使い方

肺がんの早期発見に有効なのはレントゲン? CT検査?

肺がん(第2回)

 近藤慎太郎=医師兼マンガ家

日経Gooday読者なら誰もが気になる「がん」。『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』の著者であり、マンガも描ける医師である近藤慎太郎さんに、がんとがん検診の新しい常識について解説していただきましょう。


肺がんを早期発見するには?

 肺がんの患者数は、がん患者全体の中でも上から第3位、2016年の死亡数は年間約7万4000人で、がん患者の中では最も多くなっています(「がん情報サービス」より)。肺がんは、それくらい社会的なインパクトが大きい問題なのです。

 2017年6月、女優の野際陽子さんが肺がんで亡くなったと報じられました。ほかにも大橋巨泉さんや愛川欽也さん、筑紫哲也さん、つかこうへいさん、梨元勝さん、5代目三遊亭圓楽さん、プロ野球監督の仰木彬さん、漫画家の青木雄二さん、作家の井上やすしさん、空手家の大山倍達さん、ミュージシャンのジョニー大倉さんなど、肺がんによって亡くなる有名人はとても多い。

 そんな中、2017年には俳優の中村獅童さんにも肺がんが見つかったと報じられました。けれど、定期的にがん検診を受けていたため、非常に早期の段階で見つかり、完治が見込めるとのことでした。

 では、肺がんで亡くなった人たちは定期的に肺がん検診を受けていなかったのでしょうか。

 肺がん検診といえば、胸部レントゲン撮影が一般的です。

 皆さんご存じのように、胸部レントゲン撮影は非常に簡単で手軽に受けることのできる検査です。ですから、肺がんで亡くなった人全員がレントゲンを1枚も撮っていなかったとは考えにくいでしょう。

 ならば、早期発見できた中村獅童さんと、肺がんで亡くなってしまった人たちとの運命を分けたものは何だったのでしょうか。

 そもそも肺がんが実際にどういう病気で、それを見つけるにはどうすればいいか、ということは意外と知られていません。

 皆さんが想像しているよりも少し複雑なので、マンガで解説します。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

“万能”ではないCT検診

 CT検診が死亡率を下げるという報告の一方で、「悪性度の低いものをたくさん見つけているだけじゃないか(過剰診断)」という批判もあります。

 そして見つかったものの多くは、さらなる精密検査の対象になるので、診断が確定するまでに時間も費用もかかるし、肉体的・精神的なストレスも相当なものになります。

 医療被ばくの問題も考慮しなくてはいけません。CT検診を受け続けたことで白血病などのリスクが上がっては、元も子もありません。リスクとベネフィットを天秤にかけると、少なくとも50歳未満には推奨できないとされています(*11)。

 特に乳がんの家族歴がある人は、特殊な遺伝子変異がある可能性があります。

 遺伝子変異があって30歳未満の場合、医療被ばくによって乳がんのリスクが高まることが報告されています(*12)。

 それを考慮すると、30歳以上であってもCT検診はできるだけ避けた方が無難かもしれません。

 CT検診は、現状では自治体の健診に取り入れられていません。

 そのため希望する場合は人間ドックなどで、オプション検査として選択する必要があります。

 これらの情報をまとめると、肺がん検診は次のように整理できます。

  • レントゲンによる検査によって、肺がんの死亡率は30~60%下がる
  • タバコの影響が強い肺門部がんは、痰の検査を併用することが有効である
  • CT検査は、レントゲンによる検査よりも肺がんの死亡率を20%下げられる。ただし過剰診断、被ばくのリスクに注意が必要で、自治体の健診では受けられない

 肺がんで助かる人と亡くなる人の運命を分けるものは何か。

 先ほどの疑問に回答するなら、「レントゲンによる検査だけでは時に不十分。自分のリスクに応じて、痰の検査やCT検査を併用することが大切」ということになります。

 肺がん検診も意外と複雑ですが、ほかのがん検診に比べて明らかに優れている点があります。それは「術者(医師や技師)による技量の差が出にくい」ということです。

 レントゲンやCT検査はあくまで機械が行うので、胃カメラや超音波検査と違って、誰が検査をしても、ある程度の精度が期待できます。これは非常に公平なことで、肺がん検診の大きなメリットとも言えるでしょう。

 技量によって結果に差が出る検査は、ある意味では術者の腕の見せどころ。

 けれど本当に大切なのは、誰であっても、どんな場所でも、どの術者でも、平均的に同じレベルの医療が受けられることでしょう。これは医療の最も理想的な姿です。

 あえて弱点を言えば、レントゲンやCT検査の結果は、1枚1枚医師が読影するので、その読影能力によって差が出るかもしれません。

 けれど、それもこの10年以内に劇的に変化すると思います。

 現在、世界中の企業や研究所がAI(人工知能)の研究を進めています。医療において、画像診断はAIが最も活躍しやすい分野の一つと考えられています。AIが皮膚がんを皮膚科の専門医と同等のレベルで診断をした、といった報告もあります(*13)。

 また実際に、AIによるCT診断も全世界で導入されつつあります。

 病院に入ったら、そのままCTの検査台に乗って撮影し、AIが結果を瞬時に診断する――。治療はさておき、診断に限って言えばそんな日が遠からず訪れるでしょう。

『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』

この記事は、日経BP社の『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』(近藤慎太郎著、312ページ、税込1512円)からの転載です。

■参考文献
*1 Ikeda N et al. What has made the population of Japan healthy? Lancet 2011;378:1094-105.
*2 Wakai K et al. Tobacco smoking and lung cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiological evidence among the Japanese population. Jpn J clin Oncol 2006; 36: 309-24
*3 Wakai K et al. Decrease in risk of lung cancer death in Japanese men after smoking cessation by age at quitting. Cancer Sci 2007;98:584-9
*4 Tobacco smoke and involuntary smoking. IARC Monogr Eral Carcinog Risk Hum. 2004;83:1-1438
*5 日本呼吸器学会HPより
*6 平成9年度厚生省心身障害研究「乳幼児死亡の防止に関する研究」総括研究報告
*7 平成27年度 家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告
*8 佐川元保他.肺がん検診の有効性評価:厚生省藤村班での 4つの症例対照研究.肺癌 2001;41:637-42
*9 全国がん(成人病)センター協議会加盟施設における5年生存率(2006~2008年診断例)
*10 National Lung Screening Trial Research Team. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med 2011; 365:395-409
*11 CT検診精度管理ガイドライン
*12 Pijpe A et al. Exposure to diagnostic radiation and risk of breast cancer among carriers of BRCA1/2 mutations:retrospective cohort study(GENE-RAD-RISK). BMJ 2012;345:e5660
*13 Esteva A et al. Dermatologist-level classification of skin cancer with deep neural networks. Nature 2017;542:115-8
*14 厚生労働省・禁煙支援マニュアル
*15 Castelo-Branco C et al. Facial wrinkling in postmenopausal women. Effects of smoking status and hormone replacement therapy. Maturitas 1998 ;29:75-86
*16 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_y/robert.pdf
*17 Auer R et al. Heat-Not-Burn Tobacco Cigarettes: Smoke by Any Other Name JAMA Intern Med 2017;177:1050-2
近藤慎太郎(こんどう しんたろう)さん
医師兼マンガ家 日赤医療センター、亀田総合病院、クリントエグゼクリニックなどで勤務
近藤慎太郎(こんどう しんたろう)さん 北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部付属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任。消化器の専門医として、これまで数多くのがん患者を診療。年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。特技はマンガで、解説マンガも著者が自ら描いている。