日経グッデイ

医者がマンガで教えるがん検診の受け方、使い方

「年のせい」の不調はテストステロン不足にあった

前立腺がん(第5回)

 近藤慎太郎=医師兼マンガ家

日経Goodayの男性読者なら誰もが気になる「前立腺がん」。『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』の著者であり、マンガも描ける医師である近藤慎太郎さんに解説していただきました。


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 それは何かというと、「テストステロン」です。

 皆さんご存知の通り、テストステロンは男性ホルモンの一種です。女性の場合、女性ホルモンの減少によって更年期症状が起こることはよく知られています。どういった症状が起こるのか、そしてどう対処すればいいのか、女性が歳を重ねる上で、非常に重要な問題として取り上げられてきました。

テストステロンの低下が巻き起こす様々な症状

 一方、男性ホルモンの増減については今まであまり注意が払われてきませんでした。「おそらく減るのだろうが、仕方がないことだ」という程度の認識の人が多いのではないでしょうか。女性のように、閉経のタイミングで様々な症状が顕在化するという分かりやすさがないことも影響しているでしょう。

 しかし近年の様々な研究の結果、男性の加齢に伴う仕方ない変化として捉えられてきた様々な症状の発現に、テストステロンの減少が深く関わっていることが分かってきました。

 例えば、EDは象徴的です。ほかにもテストステロンの減少は、「筋肉量の減少」や「肥満」、「骨密度の低下」といった肉体的な変化に関わっています。いずれも転倒や骨折、その結果としての寝たきりのリスクを上げる強力な因子です。

 精神・神経的な症状としては「うつ」があります。今までは「老人性うつ」は仕方のないこととして説明されてきました。うつは発症メカニズムを数値として捉えることが難しいため、診断・治療においては、個々の医師の裁量に負うところが大きいという限界もありました。

 しかし、もしテストステロン値を一つの指標として用いることができれば、予防や対処方法も変わってくるでしょう。さらには「認知症」。本人にとっても家族にとっても深刻な問題です。深刻な超高齢化が進む日本にとっては極めて大きな不安要素です。

 EDから筋肉量の減少、肥満、骨密度の低下、うつ、認知症……。一見してバラバラのこうした症状が、「テストステロンの減少」というキーワードで横断的に説明可能なのです。では、順を追って解説していきましょう。

20~30歳をピークに減り始めるテストステロン

 テストステロンは、主に精巣で産生されるホルモンです。男性の一次性徴、二次性徴を促し、精子形成に関与します。また血管を拡張したり、動脈硬化を抑制したりする作用があります。

 精巣のほかにも、身体の筋肉や脳の海馬でもテストステロンは産生されており、その場所その場所で、重要な役割を果たしています。いわば「地産地消」されているのです。

 テストステロンは筋肉の量と強度を保ち、骨密度を高め、脂肪細胞を減らすという男性的な肉体の維持に深く関わっています。脳神経系では、特に認知機能や集中力、リスクを取る判断と関係すると言われています。

 骨太でがっしりしていて、運動が好きで、強力なリーダーシップを持った人物像に当てはまる人もいるでしょう。もしかするとテストステロンが高いのかもしれません。テストステロンの作用は非常に多岐にわたっていて、しかも健康な心身の維持にとっては重要なものばかりなのです。

 そんな大事なテストステロンですが、体内の濃度は20~30歳にピークを迎え、その後は毎年少しずつゆっくりと減少していきます。加齢のほかにも、肥満や糖尿病、がん、低栄養、うつ病、精神的なストレスなどでテストステロンは減少してしまいます。

 テストステロンの減少による、いわば男性版の更年期障害は、LOH症候群(lateonset hypogonadism syndrome)と呼ばれています。その症状には前述したものも含めて、次のようなものがあります。

  • 性欲低下、ED
  • 知的活動、認知力の低下
  • うつ
  • 睡眠障害
  • 筋肉の減少
  • 内臓脂肪の増加
  • 体毛と皮膚の変化
  • 骨密度の低下、骨粗鬆症、骨折のリスク増加
  • 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)

 ここで大事な注意点があります。肥満やうつは、テストステロン減少の原因にもなるし、結果にもなっています。つまり肥満になれば、テストステロンが減少してさらに肥満を悪化させ、うつになれば、テストステロンが減少してさらにうつを悪化させるという、「負のスパイラル」が起こるのです。

 それとは反対に、適切な運動によって全身の筋肉量が増えれば、テストステロンの産生量が増え、筋肉の維持、脂肪の減少といった「正のスパイラル」になっていきます。

 LOH症候群の患者にテストステロンを投与すると、先ほど挙げたような症状が全般的に改善される可能性があります。特にEDやうつ、認知機能については効果があるという報告が多数あります。

 ただし、テストステロンもむやみに投与すればいいというわけではありません。テストステロンは前立腺がんや前立腺肥大、睡眠時無呼吸を悪化させる可能性があるので、それらの病気がある人には投与はできません。また65歳以上の場合、投与によってむしろ虚血性心疾患のリスクを上げてしまったという報告があります。

テストステロン投与で虚血性心疾患のリスクが上がる?

 テストステロンには血管を拡張したり、動脈硬化を抑制したりする作用があります。またテストステロンの減少によって虚血性心疾患のリスクが上がります。それを考慮すると、この報告の結果は、一見矛盾するようです。

 それについては、次のように説明できます。テストステロンは赤血球の数を増やす作用もあります。これによって全身に運搬される酸素量が増えるので、運動能力が上昇するというメリットがあります(スポーツ選手の高地トレーニングと同様の効果です)。

 その反面、血液が濃くなるので、細い血管が詰まりやすくなってしまうのです。40~50代で動脈硬化が進んでいなければ、テストステロンによって赤血球の数が多少増えても問題にはなりません。

 けれど報告にある通り、65歳以上などの人で、加齢によって動脈硬化が進んでいれば、テストステロンの良い作用が出る前に、増えた赤血球で血管が詰まってしまう可能性も出てくるのでしょう。もしあなたがLOH症候群でテストステロンの投与を検討しているのであれば、事前に心臓の評価をきちんと行っておくことが重要です。

 また現段階では、テストステロンの減少によって起きる症状が、テストステロンを補充することで、どこまで改善するかは未知数です。保険適用でもないので、継続的な出費が必要になるという点もマイナス点です。

 テストステロンの研究は端緒についたばかり。人為的にテストステロンを補充するのは最終手段として、まずは運動などのアクティブな活動を通じて、生理的な範囲内でのテストステロン値をキープしていくことが安全でしょう。

 それでも、今まで漠然と「歳のせい」と片づけられていたいくつもの症状が、テストステロンという一つの切り口によって、定量的に解明されつつあるのは非常に好ましいことです。

 それによって寝たきりや認知症のリスクが減れば、健康寿命の増進に寄与します。介護人口の増加が危惧される日本においては、一つの光明にもなり得るでしょう。今後の知見の集積に期待したいと思います。

『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』

この記事は、日経BP社の『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』(近藤慎太郎著、312ページ、税込1512円)からの転載です。

■参考文献
『ED診療ガイドライン』
Men’s’ Health2016
加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き
Basaria S1, et al. Adverse events associated with testosterone administration. N Engl J Med. 2010;363:109-22.
近藤慎太郎(こんどう しんたろう)さん
医師兼マンガ家 日赤医療センター、亀田総合病院、クリントエグゼクリニックなどで勤務
近藤慎太郎(こんどう しんたろう)さん 北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部付属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任。消化器の専門医として、これまで数多くのがん患者を診療。年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。特技はマンガで、解説マンガも著者が自ら描いている。