70歳で前立腺がん発覚、治療する? しない?
前立腺がん(第2回)
近藤慎太郎=医師兼マンガ家
日経Goodayの男性読者なら誰もが気になる「前立腺がん」。『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』の著者であり、マンガも描ける医師である近藤慎太郎さんに解説していただきました。
(前回から読む)
繰り返しますが、PSA検診は前立腺がんを見つけるには非常に有用な方法です。
けれど、がんがゆっくりと育っている間に寿命を迎えるような「ラテントがん」を多数見つけている可能性があります。
実際、ほかの原因で亡くなった人を病理解剖したところ、その60~70%に、寿命に影響しなかった前立腺がんがあったと報告されています。それだけ、前立腺がんには悪性度が低めのものが多いのです。
早期の前立腺がんを「手術するグループ」と「治療せずに経過観察するグループ」にランダムに分けて20年間経過を追ったところ、両グループで前立腺がんの死亡率には、統計学的な差がなかったという、かなり衝撃的な報告もあります。
日本の医療費は年々増加していて、その財源をどう確保するかが深刻な社会問題になっています。頻繁な受診や検査、重複処方など、適正化すべき過剰医療は世の中に散見されます。それらと同列とまでは言いませんが、仮に寿命に影響しないようながんをたくさん見つけて治療している側面があるのだとすれば、その必要性は、再評価する余地があるはずです。
しかし、これは一筋縄ではいかない難しい問題です。
いくら悪性度が低めと言っても、がんはがん。がんであると指摘された本人にしてみれば、「せっかく見つかったのなら、治してすっきりしたい」と思うのが心情ではないでしょうか。
例えばあなたが70歳の男性で、前立腺がんが見つかったとします。担当医から「おそらく20年後でも問題ないから様子を見ましょう」と言われたら、どう感じるでしょうか。
「もしかすると90歳でも元気でいるかもしれない……。それならむしろ、まだ若くて体力のあるうちに治療しておこう!」と思っても、全くおかしくありません。
早期がんを簡便に見つけるPSA検診があって、それに対する治療法があり、きちんと保険適用にもなっている。これだけお膳立てがそろっている現状で、「それなら私は経過観察で結構です」と言い切れる人は少数派でしょう。
医師の立場から考えても、「20年間大丈夫です!」と保証できるわけではないので、すべてを納得した上で、患者さんが治療を希望するのであれば、断る理由はどこにもありません。
医療の現場に限って言えば、ラテントがんを治療しても、どこからも苦情は出ません。この問題を現場の自助努力で何とか解決しようとしても、非常に難しいのです。
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- 前立腺がん、治療の選択肢は多岐にわたる