嫌な匂いを嗅いだとき、体に現れるストレス反応とは?
第3回 先入観が匂いの好き嫌いを左右する、不思議な「匂い」のお話
田中美香=医療ジャーナリスト
誰でも、強烈な悪臭を嗅ぐと、鼻をつまんでそこから逃げ出したくなるもの。そのときわれわれの体には、「不快だ」という感覚だけでなく、れっきとしたストレス兆候も現れるという。知られざる「匂いと健康」の関係を紹介する本コラム。今回は、不快な匂いがストレスにつながる仕組みについて解説していこう。
不快な匂いを嗅ぐと、唾液の中にストレスの兆候が現れる
日本人は大の消臭好き。室内設置型の芳香消臭剤は数百億円の市場規模とされ、他人の体臭を「スメハラ(スメル・ハラスメント)」と称して嫌がる人が多い時代になった。
匂いのプロフェッショナル、東京大学大学院農学生命科学研究科教授の東原和成(とうはら かずしげ)さんは、近年の消臭ブームについてこう語る。
「誰もが不快になるような匂いは、ないに越したことはありません。しかし、他の感覚と違って、匂いから逃げるのは困難です。目や耳をふさげば、視覚や聴覚の情報はシャットアウトできますが、匂いの場合、息を止めて過ごすわけにはいきません。不快な匂いにさらされてストレスが蓄積されると、体にもその兆候が現れるようになります」(東原さん)
匂いを嗅いで不快に感じると、ストレスの量を示す「α(アルファ)-アミラーゼ」が唾液の中に現れる(*)。反対に、匂いを嗅いでも、その人が不快にさえ感じなければα-アミラーゼは分泌されない。ストレスの度合いは、匂い成分そのものの作用ではなく、匂いで不快になるかどうか、つまり「感じ方」によって左右されるという。

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