医師が警鐘! 「脱水」「かくれ脱水」が引き起こす危険な病気
第1回 脱水症は脳梗塞や肺炎の原因にもなる、健康長寿の大敵
梅方久仁子=ライター
夏場に多い「脱水」が引き起こす病気といえば、真っ先に思い浮かべるのは熱中症だろう。だが、実はそれだけではないのをご存じだろうか。脱水症は、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎など、時に命にかかわる危険な病気を引き起こす、健康長寿の大敵だ。本特集では、脱水症の啓発活動に取り組む、済生会横浜市東部病院患者支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜氏に、猛暑で急増している脱水症やその一歩手前の「かくれ脱水」の怖さと、誤解されることの多い「正しい水分の摂り方」を詳しく聞いていく。
全国的に記録的な猛暑が続いている。消防庁の集計によれば、2018年7月に熱中症で医療機関に搬送された患者は、前年同時期の2倍に当たる約5万人となり(2018年7月2日~7月29日、4万9046人)、死亡者も多数報道されている。この熱中症のベースにあるのが、脱水症だ。脱水症とは、大量の汗をかくことなどによって、体の中の体液が減ってしまった状態のことをいう。

私たちの体は、半分以上が水分(体液)でできている。食事と違って、普段意識されることの少ない水だが、侮ってはいけない。脱水症は、熱中症のみならず、脳梗塞や肺炎など、命に関わる重大な病気にも直結する。脱水症から命を落とすという最悪の事態を防ぐには、予防はもちろんのこと、脱水症の一歩手前の「かくれ脱水」の段階から、早め早めの対処が必要だ。
後述するが、年をとるにつれて、体の中で保持できる体液の量は自然に減少していく。若い頃と同じ感覚でいると、知らず知らずのうちに脱水に陥ってしまうリスクがあるのだ。「教えて!『かくれ脱水』委員会」の副委員長として脱水症の啓発活動に取り組む、済生会横浜市東部病院患者支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜氏は、「日頃から元気な高齢者を見ると、皆さん上手に水分摂取をしている印象を受けます」と話す。健康長寿の実現には、適切な水分摂取が欠かせないと言っても過言ではないだろう。
では、そもそも脱水症とはどんな状態で、どんな不調や病気を引き起こすのか。どんな人が、どんなときになりやすいのか。まずは脱水のメカニズムから見ていこう。
そもそも脱水症って? 水分だけでなく塩分も同時に失われている
人間の身体は、多くが水分(体液)でできている。体重に占める体液の割合は、母親の胎内で生命が発生した瞬間はほぼ100%、胎児は90%で、子どもでは70~80%くらいを占める。年をとるほど体液の割合は減っていき、大人は約60%、高齢者では50%くらいになる(図1)。
「体液というと血液を思い浮かべがちですが、全体重からすれば血液の占める割合はわずかです。体液のほとんどは、体の組織を作っている細胞の中やその周囲に、『細胞内液』あるいは『細胞外液』として蓄えられています。これらの体液は、水と塩分(電解質)でできています」(谷口氏)。つまり、脱水症とは、体の中の水分だけでなく、塩分も同時に失われた状態のことをいう。このことは、正しい水分補給の方法を身に付ける上で重要なポイントになる(詳しくは第2回で解説予定)。
「人間の体で多くを占めるのは骨と筋肉ですが、骨はあまり体液を蓄えられないため、筋肉が体液貯蔵庫として大きな役割を果たしています。年をとると筋肉量が減るので、蓄えられる水分量も減っていくというわけです。高齢者に限らず、筋肉の少ない人は、体の中の体液が少なく、脱水症になりやすいといえます」と谷口氏は解説する。
体重の3~5%の体液を失うと軽度の脱水症、6~9%で中等度の脱水症、10%以上で重度の脱水症となる。重度の脱水症になると、けいれんや血圧低下、意識障害などが起こり、命にかかわることもある。