「血巡りスイッチ」で血流を増やし、血圧を下げる!
第3回 毎日数分、ツボ押しのススメ
田中美香=医療ジャーナリスト
高血圧は、血管の老化を進め、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす恐ろしい存在だ。「少し高いだけだから平気だろう」などと思って対策を先延ばしにしてはいけない。本特集では、ミスター血圧こと、医師の渡辺尚彦さんが勧める血圧対策を紹介してきた。最終回となる今回は、渡辺さんが自ら試して効果を実感できた健康法の中から、血圧コントロールに役立つ3つの方法を紹介しよう。
本特集では、毎日の血圧を記録し大病を回避する「 血圧レコーディング 」と、短期の減塩を繰り返す「 反復1週間減塩法 」などの血圧対策について解説してきた。いずれも無理なく続けやすい方法なので、まずはここから着手していただきたい。
これらの対策を勧める “ミスター血圧”こと、前東京女子医科大学東医療センター内科教授・愛知医科大学客員教授の渡辺尚彦さんは、プラスα(アルファ)で実践してほしいことがあると話す。それが「ツボ押し」だ。
渡辺さんは、世間で評判になっている健康法で「これは!」と思ったものは、自分で試すようにしている。そして、実際に効果があれば積極的に患者にも勧めている。そんな健康法の中には、血圧を下げる上で役立つものもあり、患者にも喜ばれているという。今回は、その中から血圧コントロールに役立つツボを紹介しよう。
血巡りスイッチがあるのは、手の「合谷(ごうこく)」
「ツボ」とは、東洋医学でいう経穴(けいけつ)のこと。私たちの体には自然界のエネルギーである「気」が巡っているとされ、気が流れる道すじ(経絡 けいらく)の上にある要所をツボと呼ぶ。鍼灸院に行けば本格的な施術を受けられるが、自分で押すだけでもコリがほぐれて心地よくなる、全身にはそんな手軽なツボが存在する。
ツボ押しが肩こりなどに効くことを実体験している人は少なくないと思うが、「ツボ押しが血圧に関係する」というのは初耳だという人も多いだろう。ツボ押しで血圧は本当に下がるのか? そして一体どこをどう押すのか。
渡辺さんは、高血圧を中心とした循環器病を専門とする西洋医学に携わる医師。そんな渡辺さんがツボに着目するようになったのは、自身のある体験があったからだ。
「今から30数年前のことですが、当直の夜に、強烈な歯痛に襲われました。このとき、たまたま雑誌で見かけた『痛みに効くツボ』を押すと、嘘のように歯の痛みが軽減したのです。この経験から、不調を訴える患者にツボ押しを勧めたところ、歯痛や頭痛、さらにはめまいや五十肩が改善された人もいました。そして、血圧が下がったと知らせてくれる患者もいたのです」(渡辺さん)
渡辺さんが指摘する高血圧に効くツボとは、手の「合谷(ごうこく)」。東洋医学に関心のある人なら一度は耳にしたことがある、おなじみのツボだ。合谷があるのは、手の親指と人差し指の間、いわゆる水かき部分の三角地帯。反対側の手でグッと押し、「痛気持ちいい」場所といえばお分かりいただけるだろう。下図の★印だ。
合谷は、東洋医学の世界では、さまざまな不調を改善する万能ツボといわれ、眼精疲労、頭痛、肩こりなどに効くことで知られる。合谷のことを、渡辺さんは「血流を増やす、血巡りスイッチです」と話す。「合谷を押すと上半身の血管が拡張してポカポカ温かくなり、血圧を下げる効果が期待できる」のだという。