日本人が実践すべき「認知症のリスクを減らす食事」とは
第3回 「MIND食+減塩」の食生活を基本に、運動・知的活動も取り入れよう
伊藤和弘=フリーランスライター
近年の研究から、認知症リスクは生活習慣によって大きく変わることが分かってきた。中でも重要なのが食生活。本特集では前回、“認知症を防ぐ目的”で開発された米国の最新食事法「MIND食」を紹介した。この食事法をきちんと実践した人は認知症の発症リスクが最大53%低かったという驚きの結果が出ている。だが、この食事法は米国人向けに開発されたもので、日本人が実践する際には注意すべきポイントがいくつかある。認知症と循環器病のエキスパート・猪原匡史さんに、詳しく聞いていこう。

人生100年時代を迎えつつある現在、加齢とともに増えていく認知症は最も恐ろしい病気の一つだろう。しかし近年の研究から、脳卒中が原因で起こる脳血管性認知症はもちろん、長いこと予防が難しいと思われていたアルツハイマー病も、生活習慣によって発症率が大きく変わることが分かってきた。
本特集の第1回では認知症と食生活に深い関係があること、第2回では米ラッシュ大学医療センターで考案された「アルツハイマー病を予防する」ための最新の食事法「MIND食」(*1)の内容を紹介した。
MIND食では、「積極的にとるべき食材10項目」と「食べ過ぎないように注意すべき食材5項目」を定めている。15項目すべてを厳守する必要はない。平均5.6項目しか実行していないグループに比べて、平均9.6項目実行したグループは、アルツハイマー病の発症率が53%低く、平均7.5項目実行したグループ(ゆるやかに実行)でも35%低かった(*2)。つまり、“ゆるく”実行するだけでも効果が期待できるわけだ。認知症と循環器病のエキスパートである国立循環器病研究センター 脳神経内科部長の猪原匡史さんは、「日本人であれば実行しやすい食事法」だと話す。
とはいえ、MIND食はもともと肉食を基本とする米国人を対象に考案された食事法だ。そのため、「食習慣の異なる日本人には難しい項目もあるし、抜けている部分もあります」と、猪原さんは指摘する。
そこで最終回となる第3回は、猪原さんが提案する「MIND食の日本人向けアレンジ」をお伝えしよう。
*2 Alzheimers Dement. 2015 ;11(9):1007-14.
日本人は、MIND食に減塩を組み合わせる必要あり
“日本人向け”の認知症予防食として考えると、MIND食に「減塩」の項目がないことが最大の問題だと猪原さんは指摘する。前回触れたように、実はMIND食には塩分制限がないのだ。
「これはMIND食の研究が平均年齢80歳超の高齢の米国人を対象にしたためで、彼らはあまり塩分をとらないので制限する必要がなかったのだと考えられます。循環器病や認知症を患わずに80歳を迎えた高齢の米国人はそもそも塩分摂取量が少ないのです」(猪原さん)

一方、「韓国人などと並んで世界で最も塩分をとっている日本人に塩分制限は欠かせません。さらに、アジア人は塩分感受性が高い、つまり同じ塩分をとっていても、遺伝的に血圧が上がりやすい人が欧米より多いのです。このため、日本人には、MIND食に減塩を組み合わせる必要があります」(猪原さん)
減塩が健康にいいのは周知の事実。「そんなことは言われるまでもない!」と思う人も少なくないと思うが、そこは認識を新たにしていただきたい。減塩は、認知症予防の極めて重要な要素なのだ。