筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、すべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉やトレーニングの正しい知識をやさしく解説していきます。今回は、前回に引き続き「スポーツ遺伝子」を取り上げます。スポーツ遺伝子は、一生変えることができないのでしょうか。そして、競技への向き・不向きをどのくらい決定付ける要素なのでしょうか。
前回はスポーツ能力に関連する可能性のある遺伝子「スポーツ遺伝子」について解説しました。このスポーツ遺伝子は一生変えることができないのでしょうか?
答えはYES。持って生まれた遺伝子のタイプを変えることはできません。ただ、仮に現在取り組んでいるスポーツと、自分の持つスポーツ遺伝子のタイプが合わなかったとしても、悲観することはないと思います。

第20回では、ACTN3という遺伝子の変異が少ない人がスプリント競技で力を発揮する可能性が高いと書きました。しかし、アメリカの研究グループからは、スプリントに向いていないはずの変異型を持っている人の方が、正常型を持っている人より、筋力トレーニングをした時に筋力増加の伸びが大きいという結果が報告されています。
あくまでも予測ですが、これにはいくつかの理由が挙げられます。
まず一つは、実験におけるトレーニングの質の問題です。半端なトレーニングをしたのでは、筋肉はなかなか強くなってくれません。しかし、実験で採用しているトレーニングは、スポーツ選手がやっているようなハードなものではなく、言ってみれば半端なトレーニングなのです。
ハードな運動経験のない被験者を集めてきて、3カ月ほどトレーニングさせるという実験なので、運動経験がない人ほど運動前と運動後の変化が大きい傾向がある。だから、まず被験者を集めた段階で、変異型を持っている人の方が運動経験のレベルが低かったという可能性があるわけです。