筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、無駄な脂肪が落ち、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、残念ながらすべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉やトレーニングの正しい知識をやさしく解説していきます。
今回は、スポーツ能力に関係する遺伝子について。数あるスポーツ遺伝子の中でも、一番影響力を持つと考えられているACTN3について興味深い報告があります。
スポーツ能力に関連する可能性のある遺伝子を、「スポーツ遺伝子」と呼んでいます。

人間の個人差や体質にかかわる遺伝子の研究がさかんに行なわれている現在、スポーツ能力に関連する可能性のある遺伝子も、すでに100個以上報告されています。その中で、今のところ一番強い影響力を持つ遺伝子と考えられている「ACTN3」を紹介しましょう。
ACTN3は、α-アクチニン3というタンパク質をつくる遺伝子です。
このα-アクチニン3は、筋線維の中でも速筋線維でつくられるタンパク質で、ヒトの場合には正常なタンパク質をつくれる遺伝子型(R型)と、まったくタンパク質をつくれない変異型(X型)があることがわかっています。
変異型の場合、速筋線維そのものも機能しなくなるかというと、そんなことはありません。α-アクチニンには1、2、3のタイプがあり、ヒトの筋肉の中で遅筋線維ではα-アクチニン2のみが発現しますが、速筋線維では2と3の両方が発現しているのです。そのため、たとえ速筋線維で3がつくられなくても、2が発現していれば筋線維としての機能を果たすことができる。一つの遺伝子が働かないからと言って、致命的な結果にはならないわけです。