筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、無駄な脂肪が落ち、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、残念ながらすべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉やトレーニングの正しい知識をやさしく解説していきます。今回のテーマは「筋肉量と遺伝」。生まれつき筋肉量が多い人というのはいるのでしょうか?

生まれつき筋肉が異常に発達している動物や、人間の赤ちゃんの存在は報告されています。
これには「ミオスタチン」という成長因子(第17回参照)が関係してきます。人間や牛の場合、母親のおなかの中にいる胎児の筋肉が増えて、体が大きくなればなるほど、出産が大変になってしまいます。そこで、出産の直前にはミオスタチンが多く発現し、胎児の筋肉の発達を抑制します。反対に、産まれた直後は、赤ちゃんの筋肉をすみやかに発達させるために、ミオスタチンの発現は急激に下がります。
1997年、それまで「筋倍加突然変異」と呼ばれてきた筋肉量の多い牛の品種が、遺伝子異常によってミオスタチンがまったくつくられないことが原因となっていることがわかりました。この牛は、筋肉量が普通の30%増しくらいあります。ミオスタチンは、筋肉の元になる「筋サテライト細胞」の増殖を抑える働きをしています。そのミオスタチンがまったくつくられないので、筋線維が異常に増え、筋肉の成長に歯止めがきかなくなったのです。
筋肉量が増えれば、当然、その牛から食用肉もたくさん取れますから、ヨーロッパでは近親交配をすることで、この牛の系統が維持されています。中でも「ベルジアンブルー(ベルギー青)」という品種は、牛というよりサイと見まちがえるほど筋肉量が豊富で、味も脂肪が少なくジューシーで、とてもおいしいそうです。