筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、すべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉の正しい知識をやさしく解説していきます。今回は筋力トレーニングの内臓への影響について見ていきましょう。「筋トレをしすぎると内臓がいたむ?」という話は本当でしょうか。
これは、もしかしたら1980年代に行なわれた測定の結果が強調された説ではないでしょうか。

この時期、ウエイトリフターやボディビルダーなど、激しい筋力トレーニングをしている人たちを測定した結果、血中脂質が高かったり、肝機能の数値に問題が出たことがあります。でも、当時はステロイドがさかんに使われていた時代。後になってわかったことですが、測定した人の大半がアナボリック・ステロイドを使っていたのです。
ステロイドは副作用として肝臓や心臓に影響を及ぼすので、測定結果にも響いてしまった可能性が高いのです。90年代以降は、激しい筋トレをしている人でも内臓面でマイナスの数値は出ないという報告が数多くなされています。
ただ、内臓に関しては、ちょっと気になる説もあります。
一つは、筋トレをすると肝臓が分解されるという説。肝臓は再生能力がとても高い臓器で、新しい組織がどんどんつくられています。その中の幹細胞という細胞が分裂増殖して、はるばる筋肉までたどりつき、筋肉をつくる材料になるのではないかというのです。この説が正しければ、筋トレをやりすぎると肝臓が新たな筋肉をつくるために自分の身を削ってしまう可能性もないわけではありません。