筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、すべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉の正しい知識をやさしく解説していきます。今回は「ウォーミングアップ」について詳しく見ていきましょう。なぜウォーミングアップが必要なのでしょうか。
ウォーミングアップの目的は、文字通り「温める」こと。では、なぜ激しい運動の前に体を温めるのでしょうか。

体の中の化学反応には「温度依存性」という性質があります。温度が高くなればなるほど、化学反応も早くなります。ウォーミングアップは、この性質を活かすものです。温めることで筋肉そのものを活性化させ、本番で最高のパフォーマンスが発揮できるよう準備しておくわけです。ただ、筋温(筋肉の中の温度)が41度以上になってしまうと、筋肉の中のタンパク質が変性して死んでしまいます。そこで、少しゆとりを持たせた39度ぐらいが、ちょうどいい筋温とされています。
実際、温度の差はパフォーマンスを大きく左右します。筋温が10度上がると、生体反応の速度は2.5倍ぐらい高くなります。逆に筋温が39度から30度ぐらいまで下がると、パフォーマンスが半分以下になってしまいます。パフォーマンスにとって、筋温1度は決して無視できない値。ウォーミングアップで上げておかないと、いざ競技という時に圧倒的な差をつけられてしまうのです。