筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、すべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉の正しい知識をやさしく解説していきます。今回は、腹筋と背筋など体の中でペアになっている筋肉(拮抗筋)について見ていきます。拮抗筋はバランスよく鍛えるのが大事です。
筋肉は必ず体の中でペアになっています。これを拮抗筋と言います。じつは一つ一つの筋肉の運動というのは、縮むだけで、自分で伸びることはできません。地上なら重力によって縮んだ筋肉を引き伸ばすこともできますが、水の中ではそれは不可能。一度伸びたら、それっきりになってしまいます。そんな時のために、筋肉を反対側から伸ばす筋肉が必要になります。だから、拮抗筋はバランスが取れていないと困るわけです。

拮抗筋で一番有名な例は、太ももの前部(大腿四頭筋=ヒザの伸筋)と後部(ハムストリングス=ヒザの屈筋)の筋力バランスです。一般人は伸筋の方が、屈筋よりも2倍ほど強い。それでも日常生活には支障ないのですが、一部のアスリートの場合はそうではありません。
スプリントやジャンプ競技では、大腿四頭筋とハムストリングスが同時に収縮します。ハムストリングスは大腿四頭筋の大きな力に耐えながら、股関節をぐんと伸ばす働きをします。だから、アスリートはハムストリングスの筋力が、大腿四頭筋の60~70%くらいの数値にまで達しています。ハムストリングスが弱いと、筋肉が肉ばなれを起こしたりすることもあるのです。