筋肉こそ生命活動の原動力。筋肉が活動的になれば、代謝が活性化し、健康で元気な体になります。世の中にはいろいろな「筋肉の常識」がありますが、すべて正しいとは限りません。本連載では、筋肉博士・石井直方先生が、筋肉の正しい知識をやさしく解説していきます。今回のテーマは「加齢と筋肉の関係」について。年をとると体は徐々に衰えていくものですが、実は「筋肉のスピード」は落ちないそうです。これは本当でしょうか。
「年をとっても筋肉のスピードは落ちない」と聞いたらどう思いますか? 年をとるにつれ、体は少しずつ衰えていくものです。「それって本当?」と疑問に思う人も少なくないと思います。

しかし、驚かれるかもしれませんが、おそらく本当です。
年齢を重ねるにつれ、人は誰でも動きが鈍くなっていきます。これは主に筋力の低下と、神経系の能力の低下によるもの。加齢による筋力の低下は、すでにさまざまな研究により実証されています。たとえば、一番落ちやすい大腿四頭筋の場合、25~30歳をピークに、筋肉は1年につき1%ずつ細くなっていきます。ということは、30歳から80歳までの50年間で、筋肉の太さは50%、つまり半分に減ってしまう。2本足が1本足になるようなものですから、立ち上がる時に「よっこらしょ」となるのも無理はありませんね。
ところが、私たちが以前に行なった実験では、意外にも筋肉が発揮するスピードは加齢の影響を受けないという結果が出ました。1000人以上の高齢者を調べた結果、筋力はたしかに75歳で半分ぐらいに落ちますが、「筋肉にかかる負荷がゼロ」という条件のもとで測定すると、筋線維一本ずつの最大速度はまったく変わらなかったのです。