100歳まで健康に生きるための「先制医療」とは?
第3回 「百寿社会の展望」シンポジウム 前編
梅方久仁子=ライター
100歳以上の人口が7万人に迫り、今生まれた子供の半数は100歳以上生きられるという。人口が減少し超高齢社会に突入した日本では、人生後半の生き方が大きく変わろうとしており、政府も「人生100年時代構想会議」を立ち上げて盛んに議論している。ごく普通の人が100年生きる時代に、医療や社会はどうあるべきか? さまざまな分野の専門家が語り合う「百寿社会の展望」シンポジウムから、京都大学名誉教授 井村裕夫氏の先制医療についての講演を紹介しよう。
本当に100歳まで生きるの?

「人生100年時代」と言われるが、本当にそこまで寿命は延びているのだろうか。最近の統計によると、日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳(2016年厚生労働省簡易生命表)だ。かなり長くはなっているが、100歳にはまだ遠い気がする。
「平均寿命は、例えば0歳や1歳で亡くなる人が少しいるので、それで全体の数字が下がってしまいます。平均的な人が何歳まで生きるかについて、より実感に近い値としては、寿命中位数があります」と井村氏は言う。
寿命中位数とは、生まれた人を寿命順に0歳から並べて、ちょうど真ん中の人が何歳まで生きるかを示すものだ。最近の統計では、男性83.98歳、女性89.97歳(前出の簡易生命表)となり、平均寿命より3歳くらい長くなる。現在でも、およそ半分の女性は90歳まで生きる時代になっている。
ただし、これはすべての世代での話。今、人生が始まったばかりの子どもではどうだろう。
アメリカのカリフォルニア大学とドイツのマックス・プランク研究所が調査した結果では、日本で2007年に生まれた子どもの寿命中位数は107歳。先進国では、軒並み100歳以上生きると推測されている。
「半数以上の人が100歳まで生きられるのは、素晴らしいことです。でも、それによって起こる問題もあります。例えば、その一つが医療費です」と井村氏は言う。
「1人当たりの医療費は、65歳を超えるとだんだん増えてきて、75歳以上でさらに増大します。2025年には戦後のベビーブーム世代がすべて75歳以上になり、膨大な医療費がかかると予測されます。いわゆる2025年問題です。そして、85歳を過ぎると、今度は介護費用が増大します。このままでは、ベビーブーム世代がすべて85歳以上になる2035年には深刻な財政危機が訪れるでしょう」(井村氏)
「この問題を解決するには、政策での対応が必要です。ただ、医学と医療の面からは、病気を予防することが大切になってきます」(井村氏)