健康長寿は何で決まる? 医師が考えた鍵は「メタボリックドミノ」
第1回 人生100年時代は、生活習慣病を“手前”で治す
梅方久仁子=ライター
100歳以上の人口が7万人に迫り、今生まれた子供の半数は100歳以上生きられるという。人口が減少し超高齢社会に突入した日本では、人生後半の生き方が大きく変わろうとしており、政府も「人生100年時代構想会議」を立ち上げて盛んに議論している。
寝たきりにならず、自立した生活を送れる「健康寿命」をいかに延ばすかが重要だ、と現在は考えられている。だが、100年を幸せに生きるためには、「健康寿命だけでは不十分」と、慶應義塾大学医学部教授の伊藤裕氏は言う。ホルモン研究や臓器間連関から長寿の謎に挑む医学研究の第一人者である伊藤氏に聞いた。
第1回
健康長寿は何で決まる? 医師が考えた鍵は「メタボリックドミノ」
急増する100歳以上の高齢者に共通する特徴は?
日本では、100歳以上生きる人が急増している。100歳以上の高齢者は、1995年には6000人余りだったが、2017年には6万7824人と、20年ほどで10倍以上になっている。
それでは、どのような人が100歳以上生きられるのか。慶應義塾大学医学部には、100歳以上生きる高齢者の医学研究を行う「百寿総合研究センター」がある。そこでは、長生きの人の体や生活習慣を調査することで、健康長寿を支える要因を見つけることを目的に研究が続けられている。
例えば、百寿総合研究センターで100歳以上の高齢者の持病を調べたところ、糖尿病の人が少ないことが特徴だったという(「『100歳』生きる人に学ぶ“長寿のメカニズム”」を参照)。なぜそうなのか詳しくは分かっていないが、健康長寿を考えるうえで糖尿病など生活習慣病が鍵を握っていることは間違いないだろう。
病気の連鎖を食い止めれば健康寿命は延びる
生活習慣病が怖いのは、時間の経過とともに高血圧、耐糖能障害、脂質異常症などが連鎖的に起こり、命に関わる病気へと発展していくこと。逆に、早い段階で生活習慣を改めるなどの手を打てば、将来寝たきりなどになるリスクを下げられ、「健康寿命」(自立して生活できる期間)を延ばすことができる。
このような病気の連鎖を図式化したのが「メタボリックドミノ」だ。これは、百寿総合研究センターの副センター長を兼務し、慶應義塾大学医学部の「腎臓内分泌代謝内科」に所属する教授の伊藤裕氏が世界で初めて提唱したものだ。
「ドミノ」という例えを用いているのは、時間の流れとともにドミノが倒れるように次々と病気が起こることが、わかりやすく理解できるからだという。そして、早い段階で食事や運動など生活習慣を見直せば、「ドミノの進行を食い止めたり、一度倒れたドミノが元に戻ることもあり得る」(伊藤氏)。そうなれば、健康寿命を延ばすことも可能なのだ。
この特集では、100歳以上を生きる時代に、健康長寿をどのように実現するかについて、伊藤氏とともに掘り下げていこう。