体の中に縦横無尽に張り巡らされた「血管」をよい状態に保つことは、健康を維持するため、そして老化を防ぐために極めて重要だ。では、強い血管をキープし、老化した血管を若返らせるには、何をすればいいのだろうか。本特集では、2万例を超える心臓・血管手術を手がけてきたスペシャリストに、血管の若さを維持する秘訣と、血管を強くする運動法・食事法を聞いていく。
テーマ別特集「血管を強くする運動法・食事法」
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人は血管から老化する――という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。脳や心臓などをはじめとした臓器や筋肉は、血液中に含まれる酸素や各種栄養素が届くことで機能する。人の生命力は血管によって維持されている。
血管をよい状態に保つことこそ健康を維持するために極めて重要なポイントだ。だが、人間は、誰でも老いていくもの。もちろん血管も、加齢とともに衰えざるを得ない。果たして、血管を若返らせることはできるのだろうか。若い頃はともかく、60代、70代になっても可能なのか。もし可能なら、そのためには何をすればいいのだろうか。
そこで今回の「テーマ別特集」では、血管を強くする運動法・食事法などを関連記事からピックアップして紹介していこう。
血管は、何歳になっても強くすることはできる
ドイツ ボッフム大学永代教授で、冠心会大崎病院東京ハートセンター顧問の心臓外科医・南和友先生は、「血管は、何歳になっても強くすることはできます」と語る。「人間の血管は120年機能するように作られています。血管も年齢とともに衰えるのは仕方ありませんが、『血管年齢=実際の年齢』とは限りません。血管年齢は実年齢に比例しないのです」。血管の老化について南先生はこう話す。
「まだ40歳なのに血管年齢は50歳という人もいれば、高齢でも血管年齢が若い人もいます。以前、90代で手術を行った男性患者の血管は弾力性がありプラークもありませんでした。血管年齢を調べたら70代でした。その一方で、実年齢は50代でも80代の血管になっており、心筋梗塞や脳梗塞で病院に運ばれた人も多くいます」(南先生)
血管の老化度合いは、心筋梗塞や脳梗塞をはじめとした循環器系の病気のかかりやすさを左右するのはもちろんだが、それだけにとどまらない。体の疲れやすさから、肌のハリ・ツヤなどの見た目まで、人間の体のあらゆるところに影響する。
「血管の強さは人間の生命線です。長く健康で生き生きと過ごすためには、強い血管をキープすることが何より大切。体の内側も外側も、老化を左右するのは年齢ではなく循環器系なのです」(南先生)
だが血管の老化がすでに進んでしまった人でも、今から血管を若返らせることができるのだろうか。南先生は「YES」と言い切る。「いくつになっても血管を強くすることはできます。もちろん80歳の人でも可能です」(南先生)
健康診断に落とし穴? 結果が「異常なし」でも油断禁物
こう聞くと、まず自分の血管が今どういう状態なのか気になるだろう。だが、自分の血管の状態は簡単に分かるようでいて、実はよく分からない。健診結果にも「血管年齢」は載っていない。
恐ろしいことに、血管の老化はほとんど自覚症状がない。自分で気がつかないうちに徐々に老化が進行する。読者の中でも、「自覚症状はまったくない。年1回は健康診断を受けているし、大きな問題があるとは告知されていないから大丈夫」などと安心している人も少なくないはずだ。
南先生は、「このように『自分に限って』と油断することは非常に危険です。血管の老化を見過ごす原因になりかねません」と警告する。見過ごしていると、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞などで命を失うという最悪のケースに陥ることもあるのだ。
「会社などの健康診断で“要治療”と指摘されない限り、自分は問題ないと思うものです。しかし、これこそが一番の落とし穴です。一般的な健康診断で、心臓・血管系の病気を発見できる検査はほんの一部。心臓ドックに比べるとかなり足りないのです」(南先生)
「健康診断を受けていても、動脈が詰まる病気や、破れる病気で運ばれる人はたくさんいます。『私は心臓・血管系の検査を受けていたのに…』と話す患者さんもいますが、実際に見せてもらうと、血液検査のデータだけということも少なくありません。健診の血液検査も重要ですが、それだけでは十分とは言えません。血管の硬さ、血流の通り方、血液のドロドロ具合などを総合的に把握しなければ、“この人の血管は大丈夫”と判断することはできません」(南先生)
南先生は、これをクルマの車検を例に説明する。「例えば、クルマを検査してもらう際、タイヤの空気圧やエンジンオイルの状態を見ただけで終えてしまったら、『え!ブレーキは大丈夫? バッテリー液は?』などと心配になりますよね。心臓や血管についても同様です」(南先生)
南先生がこう強く話すのは、健康診断を毎年受けていても、ある日突然、心臓・血管系の病気で搬送される人が後を絶たないからだ。「『国が決めた検査だから必要な項目が網羅されているのだろう』『問題なければ、とりあえずは大丈夫』などと思う人が多いのですが、それは誤解です」(南先生)
この記事の概要
- 1. 血管は、何歳になっても強くすることはできる
- 2. 健康診断に落とし穴? 結果が「異常なし」でも油断禁物
- 3. 50歳を過ぎたら心臓ドックを検討、まずは血管年齢の把握から
- 4. 健診結果で見るべきポイントとは?
- 5. コレステロールは、善玉と悪玉の比率が問題
- 6. 血液中に過剰な糖があると、血管が硬くなってしまう
- 7. 血管を強くする食事の効果は、3週間程度から徐々に表れる
- 8. 塩分摂取量の理想と現実には2倍近い差が
- 9. 50歳を過ぎたら、1日3食しっかり“ごはん”はNG!
- 10. コレステロールの善玉/悪玉比で動脈硬化の状態が分かる?
- 11. 善玉コレステロールを増やす食事とは?
- 12. 運動をすれば、心臓も血管も鍛えられる!
- 13. 血管を柔らかくするカギ「一酸化窒素(NO)」
- 14. 血管若返りに効くのは「有酸素運動」
- 15. 心臓に負担をかけず、血管を強くする「パワーウォーキング」
- 16. 大切なのは脈拍! 15分おきに脈拍を測りペースを調整
- 17. ストレッチや手足の「爪をもむ」のもお勧め
