蒸し暑くてよく眠れない! 夜中に何度も目が覚める! でもエアコンは苦手……。そんな人は、この夏はいつも以上に「眠れない」の解消に取り組みたい。睡眠は、ウイルスに対する抵抗力を維持するうえでも重要だからだ。では、暑い夜でもぐっすり眠るにはどうすればいいのか。そもそも睡眠は何時間とればいいのだろうか。今回のテーマ別特集では、不眠を解消するための3つのNGと、6つの快眠テクニックを紹介する。

ただでさえ、「暑くて眠れない」とストレスの高まりがちな夏。今年は特に、日夜報道されるコロナ関連ニュースの中、感染への不安や、将来への不安、テレワークや外出自粛で募る孤独感やイライラのため、ストレス度が高まっている人は多いだろう。
そんな時期こそ、十分な睡眠と栄養、休息をしっかりとるといった「セルフケア」を入念に行い、ストレスをできるだけ和らげることが大切だ。精神科医の奥田弘美さんも日経グッデイの連載「こちら『メンタル産業医』相談室」の記事中で指摘している通り、ストレスを和らげ、自分の持つ抵抗力を最善の状態に整えることが、感染を予防するうえでも、万が一感染した場合に軽症で治癒するうえでも重要だ。「ストレスが蓄積すればするほど、体力が落ちれば落ちるほどに、抵抗力が下がることは医学的に周知の事実なのです」(奥田さん)。
では、人にはそもそも、どのくらいの睡眠時間が必要なのだろうか。
1日6時間以下で問題なく過ごせる人はほとんどいない
昔から「人生の3分の1は布団の中」などと言われ、理想の睡眠時間は8時間と思っている人も少なくないだろう。だが、「これまでなんとなく信じられていた『睡眠の常識』には、誤りが多くあることが最近になって分かってきました。例えば、8時間睡眠が理想という話を聞いたことがある人も多いと思いますが、科学的な根拠はありません」と、秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授の三島和夫さんは話す。
下のグラフは、三島さんたちの研究グループが、日本人を対象に睡眠時間を調べたデータだ。6~7時間、7~8時間くらいをピークに幅広く分布していることが分かる。「睡眠時間には大きな個人差があります。一律に8時間睡眠が理想ということはありません」(三島さん)

では、睡眠時間は最低限どのくらい確保すべき、というのはあるのだろうか。これについて三島さんは「必要な睡眠時間は人によって違いますが、1日6時間以下で問題なく過ごせる人はめったにいません。睡眠負債がたまれば日中のパフォーマンスは落ちますし、糖尿病など生活習慣病のリスクも高くなります」と指摘する。
最近、「睡眠負債(=Sleep Debt)」という言葉をよく耳にするようになった。これはあたかも返せない借金のように、睡眠不足が解消されずにどんどん積み重なっていく結果、心身に悪影響を及ぼすことを指す造語だ。睡眠負債が増えると病気になりやすく、睡眠時間が6時間以下の人は糖尿病や心臓病の有病率が高いことが分かっている(Sleep. 2013 ;36:1421-7.)。うつ病や認知症の発症率も高くなる。その結果、寿命が縮む。
110万人以上を対象にした米国の大規模な調査によると、6年後の死亡率が最も低いのは6時間半から7時間半眠っていた人たちで、それより睡眠時間が短くなるにつれて、あるいは長くなるにつれて、死亡率が高くなっていた(Arch Gen Psychiatry. 2002 ;59:131-6.)。
一般に、睡眠不足が続くと慣れてきて、主観的にはつらさが減っていくことも多い。しかし、くれぐれも睡眠不足を軽く考えず、仕事や趣味の時間を削ってでも、一定の睡眠時間を確保するべきだろう。
もちろん、睡眠時間は個人差があるだけでなく、年齢によっても変わってくる。具体的には、25歳で7時間、40歳で6時間半、65歳で6時間…と、歳をとると睡眠時間は短くなっていく。「8時間以上眠れるのは中学生くらいまで、70代になったら6時間程度しか眠れませんし、眠る必要もありません」(三島さん)