「もの忘れがひどくなった」「単語がスッと出てこない」「集中力が落ちてきた」……。加齢とともに脳の衰えを実感する人は多いだろう。「このままだと、早く認知症になるのでは?」という心配が頭をよぎることもあるだろうが、脳の機能は加齢とともにただ落ちていく一方なのだろうか。どうすれば年齢を重ねても健康な脳を維持できるのか。脳に関する興味深い事実や、健康な脳を維持するための生活習慣について、過去の人気記事を基にコンパクトに解説していく。
テーマ別特集 脳の活性化
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「脳の機能は加齢によって衰えるもの」「脳の老化は止められないもの」、そう思っている人は多いでしょう。大抵の人は、集中力が低下しても、もの忘れがひどくなっても、ある程度の年齢になれば仕方がないと考えがちです。しかし、その考えは、ある意味では正しいといえますが、間違っているともいえます。
なぜなら、私たちの脳は一定の発達を遂げたあとは、脳細胞が徐々に減り、萎縮していきます。脳の体積も減っていき、機能も低下していきます。こうした加齢による脳の変化は避けられない事実である一方で、脳の機能はいくつになっても高められることが近年分かってきたからです。
後述するように、近年の研究で、脳の加齢による変化を促進するマイナス要因だけでなく、老化を抑制するプラス要因も存在することが明らかになっています。さらに、(1)脳の一部では年齢を重ねても神経細胞が新たにつくられること、そして(2)脳には外部からの刺激によって変化する力があること、という、脳に関する2つの新事実が分かってきました。

「こうした脳の特性を理解して、エビデンスに基づく生活習慣を実践していけば、生涯にわたって健康な脳を維持することは可能です。脳の加齢による変化は避けられなくても、日頃の心がけや行動次第で、老化による変化のスピードを緩めたり、いくつになっても新たな能力を獲得したりすることはできるのです」と、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之さんは言います。
では、大人の脳を成長させたり、健康な状態を維持したりするためには何が重要で、具体的にどんなことをすればよいのでしょうか。順に解説していきましょう。
脳の「情報伝達回路」は使えば使うほど太くなる
大人の脳を成長させたり、健康な状態を維持したりするためには、脳に「刺激」を与え続けることが重要だと、瀧さんは言います。
私たちの脳には約1000億個の神経細胞があるといわれますが、ただ神経細胞があるだけでは、脳が機能することはありません。脳が機能するためには、神経細胞同士がつながりあって、情報伝達回路をつくる必要があります。そしてこの情報伝達回路のネットワークは、刺激を与え続ける、つまり、使えば使うほど太く、丈夫になっていくことが分かっています。瀧さんは、この情報伝達回路を「道路」に例えて説明します。