「疲労大国」といわれる日本。「頑張って仕事をすれば、ある程度疲れるのは当たり前」「休む間もないほど忙しいが、やりがいがあるから、さほど疲れは感じない」などと思っている人も多いかもしれない。だが、睡眠時間を削るような働き方を続けていると、知らぬうちに疲れはたまる。結果、「寝てもなかなか疲れがとれない」という状態に陥るばかりか、免疫力の低下や、生活習慣病の発症につながることは多くの研究で知られている。疲労の正体から、疲労回復の実践的な方法までをまとめた。
テーマ別特集「疲労回復」
Index 1
Index 2
Index 3
Index 4
日経Goodayでは「疲労」についての最新事情を、様々な記事でお届けしてきてきた。本テーマ別特集では、このうち、「明らかになった疲労の正体」「寝ても取れない疲れの原因」「疲労回復に効く静的ストレッチ」「疲労回復を促進する筋弛緩法」についてのエッセンスをコンパクトにまとめてお届けする。
(※関連記事の一覧は最終ページに紹介しているので、より詳しく知りたい人はそちらもご覧ください)。
肉体疲労と頭の疲労は同じだった!

長時間ジョギングをしたり、座りっぱなしでデスク作業をするなどして「疲れた」と感じたとき、体の中のどこが最も疲れているか、考えたことはあるだろうか。
「デスクワークだと脳だろうけど、運動の後なら、そりゃ筋肉でしょう」という意見が大半を占めそうだ。だが、実は、両者の疲れは同じで、どちらも「脳」の疲れだ、と東京疲労・睡眠クリニックの院長・梶本修身さんは話す。デスクワークだけでなく、運動でも脳の疲れとは、一体どういうことなのだろうか。
日本では1990年代から、国を挙げて疲労の謎を科学的に解明する研究が始まり、疲労の度合いを定量化する試みなどが進んできた。その一つ、梶本さんがリーダーを務めた産官学連携のプロジェクトで、96名の健康な人を対象に、運動時や、デスクワークなどの精神作業時に、どこにどのくらい疲労が生じているかを計測する負荷試験を行った。
その結果、スクワットなどの筋肉をいためつけるような一部の激しい運動を除いて、自転車こぎやジョギングなどの有酸素運動を4時間やった程度では、筋肉はほとんどダメージを受けないという結果が出たのだという。
では、脳の中のどこが最も疲れるのかというと、「自律神経の中枢」である、視床下部や前帯状回(ぜんたいじょうかい)と呼ばれる部位だ。
自律神経は、呼吸や消化吸収、血液循環、心拍といったほとんどすべての生体活動を調整している神経系だ。体を活動的にする「交感神経」と、体を休息させる「副交感神経」の2系統がバランスをとりながら、呼吸や心拍なの生体活動を一定範囲内に安定させている。
そして、運動を始めると、自律神経の働きにより、数秒後には心拍が上がって、呼吸が速く大きくなり、やがて汗をかく。これを運動中休むことなくコントロールしているのが、脳の中にある中枢(視床下部や前帯状回)であり、だからこそ、運動をしたとき、脳は体のどの部分よりも疲れるのだ。
「運動を続けていると自律神経に疲労がたまり、あたかも筋肉疲労を起こしたかのようなアラームを発して運動をやめさせようとします。それが筋肉の疲労として感じられるのです」(梶本さん)