夏の体調不良の原因になりやすいのが「脱水症」。脱水症が引き起こす病気といえば「熱中症」を思い浮かべる人が多いだろうが、実はそれだけではなく、脱水症は脳梗塞、心筋梗塞、肺炎などの原因にもなる。脱水症やその一歩手前の「かくれ脱水」とはどういうもので、なぜ様々な病気につながるのか、どう予防すればいいのか。
今回のテーマ別特集では、夏の今こそ知っておきたい、脱水症の怖さと対策について紹介する。さらに、新型コロナウイルス感染拡大防止のためマスク着用が求められる中、夏期におけるマスク着用の注意点についても解説する。
テーマ別特集「『水分補給』『マスク着用』のコツ」
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毎年夏になると多発し、救急搬送される人も多い熱中症。特に今年は、新型コロナウイルス感染症対策としてマスクを着用する人が多い中、熱中症リスクがさらに高まるのではないかと懸念する声も多いが、この熱中症のベースにあるのが「脱水症」だ。
脱水症とは、ご存知の通り、大量の汗をかくことなどによって、身体の中の体液が減ってしまった状態のことをいうが、脱水症については、誤解や知られていないことが実は結構ある。
「脱水症を予防するには、とにかく水さえたくさん飲めばいい」と思っている人は少なくないが、これは誤解だ。体液のほとんどは、身体の組織をつくっている細胞の中やその周囲に「細胞内液」や「細胞外液」として蓄えられており、これらの体液は、水と塩分(電解質)でできている。つまり、脱水症とは、体の中の水分だけでなく、塩分も同時に失われた状態のこと。食事をきちんととれていて発汗も多くなければ水を飲んでいればいいが、食事がとれていなくて十分な塩分がとれていないときや、大量の汗をかいたときに水だけを飲むと、体液が薄まって水中毒になる恐れがある。
「脱水状態になるとのどが渇くので、のどが渇いたときに水分を補給すればいい」と思っている人もいるが、高齢になると脳の口渇神経が衰え、渇きを感じにくくなる。渇きを感じたときには脱水状態がかなり進んでいることも多いため、のどの渇きというサインに頼らない、早め早めの水分補給が必要だ。
さらに、脱水が引き起こす病気といえば熱中症を思い浮かべる人が多いだろうが、実は脱水症は、熱中症だけでなく、脳梗塞、心筋梗塞、肺炎など、様々な病気の原因になる。
“誤った対策”をとって重篤な病気にならないためにも、脱水症やその一歩手前の「かくれ脱水」について正しい知識を持っておきたい。また、今年は新型コロナウイルス感染症が急拡大したことから、例年とは違った対策が求められる。通常、マスクといえば、風邪・インフルエンザが流行する冬場から、花粉症の流行期である春くらいまでに着用する人が多かった。しかし今年は、夏場でも感染予防のため、マスク着用が求められている。そこで今回のテーマ別特集では、脱水症の怖さから水分補給のコツ、そしてマスク着用の注意点まで一挙に紹介していく。
脱水症は脳、消化器、筋肉にダメージを与える
そもそも脱水症に陥ると、体にどんな症状が現れてくるのだろうか。まずはそこから説明しよう。
「身体の中で体液をたくさん必要とする臓器は、脳、消化器、筋肉の3つです。ですから脱水症になると、これらの臓器に関連した症状が起こりやすくなります」と、済生会横浜市東部病院患者支援センター長兼栄養部部長の谷口英喜氏は言う。
「例えば、脳ならめまい、立ちくらみ、集中力・記憶力の低下、頭痛、意識消失、けいれんなど。消化器では、食欲低下、悪心(吐き気)、嘔吐、下痢、便秘など。筋肉では、筋肉痛、しびれ、麻痺、こむら返りなどが起こります」(谷口氏)。このほか、汗をかけなくなって微熱が出たり、血液の量が不足して心拍数が増加し、頻脈や不整脈になることもある。

脱水症には急性と慢性がある。急性の脱水症は、下痢や嘔吐、大量の汗などで急激に体液を失ったときに起こりやすく、その代表例は熱中症や、急性胃腸炎などに伴う脱水症だ。大人よりも水分の出入りが激しく、自分では症状に気付きにくい子どもは特に、急性の脱水症になりやすい。急性の脱水症は、点滴や経口補水液で速やかに治療すれば、回復も比較的早い(もちろん、脱水の程度にもよる)。
一方、慢性の脱水症は、日常生活で水分摂取が不足するなどして、徐々に体液が減っていく状態のことを指す。もともと体の中の水分量が少ない高齢者に多いのが特徴で、身体の不調はなんとなく感じていても、急激な変化ではないため、本人も周囲の人間も、脱水症と気づきにくい。その結果、様々な病気の引き金を引いてしまうのだ。