体を酷使しているわけではないのに、いつも疲れている。睡眠時間は足りているはずなのに、疲れが抜けない――。そうしたしつこい「疲労」の正体は、実は脳の自律神経の機能の低下であることが近年の疲労医学の研究で明らかになってきた。自律神経の疲れをもたらすのは、不規則な生活リズムや長時間のデスクワーク、暑さなど。それらがもたらす脳の疲労を回復させるにはどうすればいいのだろうか。本記事では、放置すると老化にもつながる「疲労」の怖さとその解消法を、過去の人気記事を基にコンパクトに解説していく。
テーマ別特集 疲労解消は「脳の疲れ」をとることから
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疲労は、脳の神経細胞が一時的にサビついた状態
「通勤が減り、体を動かさなくなっているのに、疲れを感じる」「体がだるくてすっきりしない」「夜によく眠れない」――。疲労医学の第一人者として知られる梶本修身さんが院長を務める東京疲労・睡眠クリニックには、このような疲労や不調を訴えて来院する患者が来院するという。
私たちが「疲れた」と感じるのは、運動や作業などで体を酷使することが原因になるわけではない。体の疲れを感じているときでも、その原因は「脳」にあるのだと、梶本さんは指摘する。「疲労の原因となるのは、脳の中でも、呼吸や心拍、血液循環、体温の調整などを司り、24時間休みなく働く自律神経です。その中枢の視床下部と前帯状回(ぜんたいじょうかい)と呼ばれる部位が酷使されることによって、疲労が生じるのです」

出勤とテレワークが入り交じる不規則な勤務形態や、暑さなどによって自律神経が酷使されると、多くの酸素が消費され、それに伴い大量の活性酸素が発生する。この活性酸素が自律神経を構成する神経細胞をサビつかせ、自律神経機能の低下を招く――。これが、疲労の根本的な原因だ。
「疲労は、活性酸素によって脳の神経細胞が一時的にサビついて、自律神経機能が低下した状態です。このサビがこびりついてとれなくなり、元に戻らなくなった状態が『老化』です。つまり、疲労が解消されないまま蓄積していくと、老化を促すことにもなってしまうのです」(梶本さん)
「疲労感」は危険を知らせる自律神経からのアラート
実際には自律神経の中枢が疲弊しているのに、体が「疲労を感じる」のはなぜなのだろうか。「それは、『疲労』と『疲労感』は別のもので、疲労が起こっている場所と、疲労を感じている場所も異なるからです」と梶本さんは話す。
激しい運動や長時間のデスクワークを行ったりすると、自律神経への負荷が高まり、疲弊していく。すると、自律神経の中枢は、サイトカインという物質を通じて、脳の眼窩前頭野(がんかぜんとうや)と呼ばれる部位に「自律神経が疲れた」という信号を送る。その信号を感知した眼窩前頭野は、それ以上、自律神経に負荷をかけないようにするために、あえて「体が疲れた」という信号に変換して発信する。これが「疲労感」のメカニズムだ。「つまり、眼窩前頭野は防御的に、自律神経の疲れを体の疲れだと感じるように錯覚させているのです。『疲労感』はいわば『これ以上、自律神経を酷使すると危険だから休め!』というメッセージといえます」(梶本さん)
「疲労感」を無視して休まずに、自律神経を酷使し続けると、突然死などの最悪の事態を招く恐れもある。「24時間休みなく働く自律神経は、実は体の中で最も老化しやすく、その機能は加齢とともに低下していきます」と梶本さんは説く。「老化した自律神経は、元の状態に戻すことはできないため、日頃から自律神経をいたわり、神経細胞のサビがこびりついてしまう前に疲労から回復させることが重要なのです」(梶本さん)