近年、睡眠不足が積み重なる「睡眠負債」の怖さが取り上げられるようになり、睡眠の大切さがクローズアップされている。実際、睡眠不足や質の低下が、疲れや集中力の低下につながることを実感したことがある人も多いだろう。しかし、問題はそれだけではない。睡眠不足や質が低下すると“太りやすくなる”。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のリスクも高まることも分かっている。そこで本特集では、睡眠と生活習慣病の関係から、実践的な睡眠改善法までを一挙に紹介する。
テーマ別特集「睡眠と肥満」
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「布団に入ってもなかなか寝付けない」「途中で何度も目が覚める」「忙しくて睡眠時間が確保できない」「朝になっても疲れが取れない」…など睡眠に関する悩みを抱えている人は多い。
睡眠が不足していると、疲れやすくなるのはもちろん、集中力が低下して仕事のパフォーマンスが低下したりする。心身への様々な悪影響を実体験した人は多いだろう。だが、問題はそれだけではない。睡眠不足や睡眠の質が低下すると“太りやすくなる”ことをご存じだろうか。さらに、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病になるリスクも高くなることが分かっているという。
そこで今回の「テーマ別特集」では、睡眠と肥満や生活習慣病の関係、そして具体的な睡眠改善法などを関連記事からピックアップして紹介していこう。
「きちんと眠れていない人が太りやすい」のは本当
30年間にわたり延べ3万人以上の肥満治療を行ってきた医師・左藤桂子さんは、睡眠と肥満の関係についてこう話す。「これまで多くの方を治療している中で太っている人の共通点として気づいたことがあります。それは『太っている人の多くがグッスリ眠れていない』ということです」と話す。「『きちんと眠れていない人が太りやすい』のは本当なのです」(左藤さん)
「私はこれまで、勤務していた病院の肥満外来で、『太っている人を痩せさせる』ことを指導してきましたが、多くの方は、睡眠に関することより『何を食べたらいいのか』といった食事への関心のほうが高く、睡眠について軽んじている傾向がありました」(左藤さん)
「もちろん、健康的に痩せるためには、食生活それに運動面の改善も重要です。しかし、いくら栄養や運動に気を配っても、正しく睡眠を取れていなければ健康的に痩せることは難しい。睡眠は健康的に痩せるために欠かせない大きな柱なのです」と左藤さんは話す。
睡眠の改善は多くの場合、食生活の改善や運動よりずっと簡単にできることもポイントだと左藤さんは指摘する。
「きちんと食事制限をしたり、しっかり運動をすれば痩せることは多くの人が分かっているでしょう。しかし『そんなにツラいことは私にはできない』と思いますよね。途中で挫折した経験がある方も多いでしょう。ダイエットを成功させるためにはラクに続けられることがとても重要です。“グッスリ眠る”だけで痩せられる可能性があるのですから、まずは実践してみてください」と左藤さん。
CPAPで睡眠の質が上がると体重も減る
実際、左藤さんの肥満治療の経験でも、患者がしっかり睡眠を取れるようになると、スーッと痩せていく例が多いのだという。
特に、治療が必要なレベルの重度の肥満患者は、睡眠に関してなんらかの悩みやトラブルがあるケースがとても多いと左藤さんは話す。「重度患者に対して肥満治療を行う場合、まずは睡眠時無呼吸症候群(SAS)を疑い、診断がついたら、CPAP(シーパップ:経鼻的持続陽圧呼吸療法)など睡眠時に呼吸をしやすくする治療法を使うことが多くあります」(左藤さん)
肥満の患者は首の周囲に沈着した脂肪により、上気道のスペースが狭くなっている傾向があるため、SASになる確率が高い。SASになると、寝ている間に何度も呼吸が止まるため、当然のことながら睡眠が浅くなる。
「CPAPのマスクを装着して寝るようになると、睡眠時の呼吸が改善されて深く眠れるようになり、健康的に痩せていく例が多く見られます。ハードなエクササイズや食事制限に頼ることなく、睡眠時にCPAPのマスクを装着して眠ることを習慣にしただけで、半年間で5㎏程度体重が減った人は少なくありません。質の高い睡眠を取ることは、私たちの体が自然と本来あるべき健康な姿を取り戻していくことにつながるのです」(左藤さん)
実際、睡眠が十分に取れていないことが肥満の原因になることは、様々な研究からも明らかになっている。例えば、米コロンビア大学の研究チームの報告では、平均睡眠時間が7時間のグループを基準にして、4時間以下の睡眠の人は肥満率が73%も高く、5時間睡眠の人でも肥満率は50%も高い、という結果が出ている(Sleep. 2005;28(10):1289-1296.)。
この記事の概要
- 1. 「きちんと眠れていない人が太りやすい」のは本当
- 2. CPAPで睡眠の質が上がると体重も減る
- 3. 糖尿病や高血圧といった生活習慣病のリスクも上がる
- 4. カギを握る成長ホルモンの存在
- 5. 食欲を抑えるホルモンが低下し、空腹感も増す
- 6. ラクに続けられる 「3・3・7睡眠法」を実践しよう!
- 7. 寝はじめの深い睡眠時に成長ホルモンが分泌される
- 8. トータル7時間もゆるく考える
- 9. まずは、チェックリストで自分の睡眠状況を確認
- 10. 睡眠の質を上げるポイント、やってはいけないNGポイント
- 11. 食生活のNGポイント! 寝る前の糖質は控える
- 12. 眠りの質を高めるなら「寝酒をしない」のが鉄則
- 13. 就寝の1時間前に、ぬるめのお湯で入浴
- 14. 就寝前は腹筋よりもドローイン
- 15. 寝室をきちんと掃除していますか?
