人間ドック受診者の3割以上が肝機能障害を指摘されるが、肝臓は「沈黙の臓器」だけあって、数値がちょっと悪くなったくらいでは症状は現れない。「とりあえず今は大丈夫だから…」と放置している人も多いかもしれないが、甘く見てはいけない。肝機能障害の主たる原因である「脂肪肝」は、悪性のタイプでは肝臓に炎症が起こり、肝臓の細胞が破壊され、やがて肝硬変や肝がんへと進んでいく。誰もが正しく知っておくべき「脂肪肝の新常識」をまとめた。
この記事の内容
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健康診断の結果で多くの人が気にするのは、「γ-GTP」など肝臓に関連するデータではないだろうか。
実際、健康診断で肝機能の数値に何らかの異常があるビジネスパーソンは多い。しかし肝臓は「沈黙の臓器」。γ-GTPなどの数値が多少悪くなったり、あるいは肝臓に脂肪がたまり「脂肪肝」になったりしたぐらいでは自覚症状は出ない。とりあえず、「日常生活には問題がないから」と放置し続けると、肝機能が低下し、肝硬変、さらには肝臓がんに至る可能性がある。
現在では、脂肪肝を放置すると、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を起こすリスクが高くなるだけでなく、動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中を発症するリスクも高くなることが分かっている。
このテーマ別特集では、肝臓の機能、健診での肝機能データの見方、放置するとまずい脂肪肝の検査方法、そして脂肪肝から脱却するための生活習慣の改善法について解説していく。
肝臓が少しダメージを受けたくらいでは、自覚症状は現れない
まず基礎知識として、肝臓の特徴を押さえておこう。肝臓は人間の体の中でも最も大きく、重さ1.2~1.5kgもある臓器だ。下図の通り、幅広い機能を担っている。
第一が、「代謝」の機能。食事から摂取した栄養素は肝臓に運ばれ、体の中で活用しやすいよう、別の物質に加工される。例えば、口から入った糖質は腸でブドウ糖に分解された後、肝臓に運ばれてグリコーゲンに変換、貯蔵されている。エネルギー源を使う必要が出てくると、再びブドウ糖に変換され、血流に乗って全身に運ばれていく。それと同じように、脂質やたんぱく質も肝臓で分解・合成されている。
第二の機能は、有害物質の「解毒」だ。有害な物質が体に入ったとき、肝臓ではそれを分解して無毒化する酵素が分泌される。一例として、お酒から摂取したアルコールは、肝臓でアセトアルデヒドに、さらに二酸化炭素と水に分解されていく。
第三の機能は、「胆汁を作る」ことだ。胆汁とは、主に脂肪の消化・吸収を助ける消化液のこと。肝臓で作られた胆汁は、胆のうを経由して十二指腸に放出され、そこを通る食物中の脂肪を消化する。肝臓は、このほかにも免疫やビタミン、ホルモンなどの調節も行っている。
これだけマルチタスクをこなしている肝臓だが、「予備力」がとても高いため、少々傷んだくらいで症状は出ない。病気が進んで肝臓の細胞(肝細胞)が少し傷んだ程度なら、他の部分が機能を肩代わりするため問題はない。また、一部が欠けても、その部分を元通りに修復する「再生力」も備わっている。人間の肝臓がんの手術で、がんのない部分の肝組織に異常がなければ、肝臓の3分の2を切除することも可能だという。