日本人の50代男性では約3人に2人が該当するといわれる「高血圧」。「少し高いだけだから」と思って対策を先延ばしにしていると、血管の老化が進み、脳卒中や心筋梗塞などの命にかかわる合併症を引き起こすほか、突然死の原因にもなる。高血圧はなぜ怖いのか。そして、どうすれば血圧は下がるのか。本特集で最新情報をアップデートしておこう。
テーマ別特集「高血圧」
Index 1
高血圧は「内皮細胞」を傷め、動脈硬化や突然死のリスクを高める
Index 2
ギリギリでも安心できない! 米国では「上130/下80」へ“下方修正”
Index 3
Index 4
健康診断などで「高血圧」を指摘されたのに「少し高いだけ」「体質だ」などと思いながら、治療をためらっている人はいないだろうか? だが、血圧が高い状態を放置していると、体の中では恐ろしい変化がゆっくり、しかし確実に進む。内皮細胞という、血管の健康を保つために必要不可欠な組織が不具合を起こすのだ。
今回の「テーマ別特集」では、「高血圧」という病気の正体と、診断基準に満たない“ちょっと高め”のレベルの血圧でも、従来考えられてきた以上に心筋梗塞や脳卒中などを起こすリスクが高いという最新知見、そして、血圧を下げるためのセルフケアの基本を、関連記事からピックアップしてコンパクトにご紹介する。
(※関連記事の一覧は最終ページに紹介しているので、より詳しく知りたい人はそちらもご覧ください)。
高血圧は「内皮細胞」を傷め、動脈硬化や突然死のリスクを高める
血管の壁は3層構造になっている。そのうち一番内側の、血液と接触する面を構成しているのが、「内皮(ないひ)」と呼ばれる一団の細胞(内皮細胞)だ(図1)。内皮細胞は、血管の一番内側に、びっしりとレンガのように敷き詰められている。
高血圧を放置すると、この内皮細胞が最初に傷み、具合が悪くなる。内皮細胞を取り出して広げると、「テニスコート6面分の面積。縦につなげると10万キロメートルにも及びます」と、広島大学未来医療センター長で心血管再生医学教授の東幸仁氏は説明する。10万キロメートルといえば、地球2週半に相当する長さだ。つまり、高血圧を放置すると、体内では「テニスコート6面分」の不具合が、「地球2周半の長さ」にわたり引き起こされる計算になる。
東氏によると、内皮細胞には以下の3つの働きがある。
(1)血液がスムーズに流れるために、血管の拡張・収縮を調整する働き | |
![]() | 内皮細胞に不具合が生じると… |
血管は必要に応じた拡張ができなくなり、血液が血管壁にかける圧力(血圧)が上昇する。つまり、さらに高血圧が進んでしまう。 | |
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(2)血管壁の内側に異物が侵入するのを阻止する働き | |
![]() | 内皮細胞に不具合が生じると… |
悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が血管壁の中に入り込み、「溜まり」(アテローム)を作る。「溜まり」が大きくなるとその部位の血管壁は厚くなり、弾力も低下する。これが、「アテローム性動脈硬化」(いわゆる動脈硬化)と呼ばれる状態だ。何らかのきっかけでこの「溜まり」が崩壊すると、コレステロールと接触した血液は急速に固まり、血管が詰まる。すると、その先に血液は流れなくなり、心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされる。 | |
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(3)血液が血管内で固まらないようにする働き | |
![]() | 内皮細胞に不具合が生じると… |
動脈硬化を起こしていなくても、血管内で血液が固まる危険性が高くなる。 |
内皮細胞の不具合に、痛みなどの自覚症状はない。しかし、不具合を放置すると、上記のように、血圧がさらに上がりやすくなるのに加え、動脈硬化も始まりかねない。さらに突然血管が詰まる危険性も高まるというわけだ。
内皮細胞の不具合についてさらに驚くべき事実を、東氏は指摘する。