健康診断で多くの人が気にする「コレステロール」。異常値を放置すると動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症のリスクが高まっていく。数値が悪くても自覚症状がないため、対策を講じない人も少なくないが、異常値を放置しておいてはいけない。では、具体的にどのような対策を打てばいいのだろうか。今回のテーマ別特集では、健診結果のコレステロール値の見方から、具体的な対策までを一挙に紹介していこう。
テーマ別特集「今すぐ実践したいコレステロール対策」
Index 1
Index 2
Index 3

血管を若く維持し、狭心症・心筋梗塞や脳梗塞を防ぐために注意したい指標といえば、血圧、血糖値、そしてコレステロールに代表される脂質だ。
脂質の中でも多くの人が気にするコレステロールは、“体に悪いから摂取しないほうがいい”という悪者のイメージがある。テレビなどで「コレステロール対策」が取り上げられる機会も多い。読者の中にも、健康診断で「コレステロールが高い」と指摘されている人は多いだろう。
コレステロール値が基準値を超えても、自覚症状はない。痛くもかゆくもないから放置しがちだが、その間に動脈硬化は確実に進み、心臓や血管の病気を引き起こす。心臓に栄養を送る動脈が狭まったり詰まったりすれば「狭心症」や「心筋梗塞」に、そして脳の動脈が詰まれば「脳梗塞」を引き起こし、突然死に至ることもある。コレステロール値を適正に保つことは、血管の健康を維持し、こうした病気のリスクを高めないための重要な条件だ。
だが、このコレステロール、かなり “やっかい”だ。分かりにくいことが多いうえに、誤解もたくさんある。
コレステロールはアブラ(脂質)の一種だから、「運動などで燃焼させれば減る」と思っている人もいるかもしれないがこれは誤解だ。コレステロールはエネルギーにはならないので、運動しても燃焼されることはない。また、最近では、卵に代表される食事から摂取するコレステロールは気にしなくていいという話も聞くが、実は、誰もが卵をいくらでも食べていいわけではない。
コレステロールを理解しにくい理由の1つは、健康診断でコレステロールに関する項目が複数あり、“単に数値が低ければいいとは限らない”こともある。 コレステロールには悪玉(LDLコレステロール)と善玉(HDLコレステロール)があり、「悪玉が増え、善玉が減る」のが問題だということはご存じの方も多いかもしれないが、どちらをより注意すべきなのか、対策は同じなのか、違うのか――などと問われても、即答できない人が多いのではないだろうか。そして、2018年度からは特定健診に「non-HDLコレステロール」という新しい項目が追加された。これは何を示すものなのか。
ここ数年で、コレステロールの常識が大きく変わってきている。“誤った対策”をとらないためにも、コレステロールを正しく認識しておきたい。そこでテーマ別特集では、コレステロールの基本、健診結果の見方から対策までを一挙に紹介していこう。
そもそもコレステロールとは? 中性脂肪と何が違う?
そもそもコレステロールとはいかなる存在なのか。そこから解説していこう。
コレステロールは、脂質の仲間である。われわれの体には数百種もの脂質が存在しており、その代表が、内臓の周囲や皮下に蓄えられてエネルギー源となる中性脂肪とコレステロールだ。
コレステロールというと、とかく悪者扱いされることが多いが、実は、コレステロールは人間の体になくてはならない成分。細胞膜やホルモン、胆汁酸などの原料でもある。コレステロールをはじめとした脂質対策の専門家・帝京大学名誉教授の寺本民生さんは、「生命を維持するには、一定量のコレステロールが必要なのです」と話す。
私たちは、脂質というと、どれも似たようなものだろうと思いがちだが、この2つはまったくの別物で、成り立ちや機能は大きく異なる。特に決定的に違うのは、「体の中で分解されるかどうか」だ。

「コレステロールも中性脂肪も、食事から摂取できる物質です。中性脂肪は体脂肪の大部分を占め、3つの脂肪酸が、グリセロール(グリセリン)で束ねられた構造をしています。体の中で分解され、脂肪酸として細胞の中に入ってエネルギー源として使われます」(寺本さん)
「これに対して、コレステロールは体の中で分解することができません。われわれの体には、コレステロールを分解するための酵素がないからです」(寺本さん)
コレステロールと中性脂肪は、食事から摂取できる量も大きく異なる。われわれが食事から摂取する脂質の9割以上は中性脂肪であって、コレステロールはごくわずかだ。そして、コレステロールは細胞膜などの材料になる、体に欠かせない成分だ。そのため、人間の体には、足りないコレステロールを体内で合成するという、不足分を補う独自のシステムが備わっている。体内のコレステロールのうち、全体の7~8割はこのシステムによって作られ、食事由来のコレステロールは2~3割と少ない。