日経グッデイ

「腰が痛い」ときの対処法 ~この方法で痛み解消

【腰が痛い】職場で起こる「腰痛」を防ぐには

第4回:厚労省『職場における腰痛予防対策指針』に学ぶ

 梅方久仁子=フリーライター

 そもそも腰痛を起こさないためには、どうすればよいのだろう。腰痛は日常生活のあらゆる場面で、様々な原因で起こる。中でも職場では、長時間過ごすうえに、つい無理をしがちだから、腰痛のきっかけは多そうだ。職場で起こる腰痛を考えれば、腰痛全体の原因や予防法が、見えてくるのではないだろうか。
 厚生労働省では、労働災害としての腰痛を防ぐために『職場における腰痛予防対策指針』を作成している。そして2013年に19年ぶりにこの指針が改訂された。改訂された指針を基に、腰痛の予防法を探ってみよう。

『職場における腰痛予防対策指針』とは?

蓋盛拓海(ふたもり・たくみ)氏
厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課・厚生労働技官
「改訂のポイントは、領域を介護・看護従事者にも広げたこと、なるべく機械の力を使って人力で持ち上げないこと、リスクアセスメントという手法を取り入れるよう勧めていることです」

 厚生労働省では労働災害としての腰痛を防ぐために、1994年に『職場における腰痛予防対策指針』(以下、『指針』)を作成した。そのかいもあって、職場での腰痛発生件数は減ってきた。ただ、2000年に介護保険制度がスタートして介護サービス業が発展したこともあり、保健衛生業(介護・看護系)での腰痛発生件数は、年々増大している。また、この連載でも紹介してきたように、最近、腰痛治療については医学的に大きな進展があった。そこで、取り上げる領域に介護・看護系を含め、全体を見直して新しい知見を取り入れる形で、2013年に『指針』を大幅改訂したというわけだ。

 この連載では、主にオフィスで働くビジネスパーソン向けに腰痛への対処法を紹介してきた。『指針』は職場の安全衛生管理の基準を示したものだから、個人向けではないし、オフィスワーカーにはあわない部分もある。それでも、医学的な腰痛の原因や予防策は同じだから、『指針』には参考にするべき点が多い。

 そこで、『指針』とその解説の中から、腰痛の原因や予防策について、オフィスワーカーにも役立ちそうな部分をピックアップして紹介しよう。オリジナルはネットで公開されているので、興味があったらチェックしてみてほしい(『職場における腰痛予防対策指針及び解説』)。

災害性腰痛は、いわゆるぎっくり腰など急性のもので、非災害性腰痛は、慢性のもの。労働災害情報なので、業務が原因だとはっきりしているもののみの数字だ。平成25年1年間に4438件の腰痛が発生し、そのうち1339件が保健衛生業

腰痛が起こるのは、どんなとき?

 予防のためには、まず原因を知ることから。『指針』によれば、腰痛の発生要因には、次のようなものがあるという。

腰痛の発生要因
  • 動作要因…腰部に動的あるいは静的に過度の負担を加える等
  • 環境要因…腰部への振動、温度、転倒の原因となる床・階段の状態等
  • 個人的要因…年齢、性、体格、筋力、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症または基礎疾患の有無等
  • 心理・社会的要因…職場の対人ストレス等

 動作要因では、重い荷物を抱え上げる作業が大きな問題だ。デスクワークではあまり関係なさそうだが、コピー用紙の束や資料がいっぱい詰まった箱など、事務室にもけっこう重いものはある。また、軽い物でも不安定な姿勢で持つと、腰痛の原因になることがある。1kgほどの書類を運んでいて、ドアを開けようと身体をひねったとたんに腰痛を起こした実例もある。

 動作要因の中で静的な負担とは、例えば座りっぱなしでパソコン作業をする場合など。オフィスでは、これはよくある問題だろう。

 環境要因として、室温はうっかりしがちかもしれない。寒い場所では筋肉が硬くなり、ケガにつながりやすい。また、機器や資料の配置なども問題になる。置いてある荷物越しに物を取ろうとして、腰に負担をかけたりしていないだろうか。

 個人的要因として、腰痛の経験者は特に気をつけたほうがいいだろう。また、棚からものを取るときに、背の低い人は踏み台を利用するなど、個々の体格や筋力にあわせて対策を考える必要がある。

 心理・社会的要因は、この連載の第1回でも取り上げたが、最近、治りにくい腰痛の原因として注目されてきている。精神的ストレスをなくすのは難しいが、オフタイムには意識してリラックスを心がけたい。

重いものを運ぶときは、荷物を身体の近くに

毛利正(もうり・ただし)氏
厚生労働省安全衛生部労働管理衛生課・主任中央労働衛生専門官
「書類を持ち上げるときに、腰を落として低い姿勢から持ち上げるだけで、腰痛はかなり防げます。ものをもったまま、ねじったりひねったりしないことです」

 実際に腰痛を予防するには、どんなことに気をつければよいのだろう。

 まず注意したいのが、作業管理だ。今回の『指針』では、重い荷物を運ぶときなどは、できるだけ機械や補助機器を使って負担を減らすことを勧めている。オフィスではあまりないかもしれないが、重い資料やパソコンなどを運ぶときには、無理をせずに台車やキャリーバッグなどを活用しよう。

 物を運ぶときには、作業姿勢と動作も重要だ。前屈、中腰、ひねり、後屈ねん転(体幹を後方に傾けながらねじる)など、不自然な姿勢を取らないようにすること。前屈や中腰になりそうなら膝をつく、向きを変えるときには、ひねらずに身体ごと向きを変えるなど、腰に負担がかかるような不自然な中腰やひねりを避けよう。

重量物を取り扱うときは、なるべく身体を荷物に近づける。そうすると、腰ではなく脚・膝の力で持ち上げることができ、バランスを崩した場合でも不自然な姿勢になりにくい。(『職場における腰痛予防対策指針』別紙解説より抜粋)
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長時間じっとしているのはよくない

 動くときだけでなく、長時間立ったり座ったりしていると腰に疲労がたまりやすい。なるべく腰に負担がかからないようにしつつ、同じ姿勢を長時間取らないようにすることが大切だ。

 立つときも座るときも、作業台の高さはひじの曲げ角度がおよそ90度になるようにすること。長時間立つときは、片足を台に乗せる、高い椅子に軽くおしりを乗せるなどするといい。長時間座るときには、ときどき立ち上がって小休止を入れるのがお勧めだ。また、ときどき足の位置を変えたり、背もたれの角度を変えて後傾姿勢を取ったり、適宜立ち上がって膝を伸ばす、クッションなどの腰当てをするなどして、姿勢を変えるようにしよう。

腰掛け作業で、腰痛改善の観点から望ましい椅子の条件
『職場における腰痛予防対策指針』別紙解説より抜粋
  1. 背もたれは後方に傾斜し、腰パットを備えていること。腰パットの位置は、第3腰椎と第4腰椎(下から順に第5~第1腰椎)の中間にあることが望ましい。
  2. 座面が大腿部を圧迫しすぎないこと。
  3. 椅子は労働者の体格に合わせて調節できること。椅子の調節部位は座面高、背もたれ角度、肘掛けの高さ・位置、座面の角度等である。
  4. 椅子は、作業中に労働者の動作に応じて、その位置を移動できるようにキャスター付きの安定したもので、座面や背もたれの材質は、快適で熱交換の良いものが望ましい。
背骨と椎骨の構造
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温度や作業空間にも気を配る

 作業のやり方を工夫することも考えよう。大量の作業は何日かに分けてやる、みんなで分担するなど、負担がかかりすぎないようにしよう。めちゃくちゃ忙しくて休憩を取りにくいときでも、例えば45分入力作業をしたら、15分は立ち上がってコピーを取るなど、違う作業を組み合わせるといい。ただし、過労を引き起こすような長時間勤務は避けること。

 作業環境を整えることも大切だ。寒い部屋での作業は、腰痛を悪化させる。どうしても寒い場所で行う必要があるなら、できるだけ暖かい服装を心がけよう。

 作業姿勢や動作が不自然にならないように、設備の配置などを工夫することも必要。不自然な姿勢になりにくいようにものを配置すれば、事故は起こりにくくなる。コピー機の周辺などに、コピー用紙や資料が積み上がったりはしていないだろうか。

腰痛予防体操で、ストレッチング

 腰痛予防には、健康管理も大切だ。『指針』では、腰痛予防体操で筋肉の柔軟性を保ち、疲労回復を図ることを勧めている。そのためには、一般的な体操や筋トレよりも、ストレッチングが望ましいとしている。

 ストレッチングとは、いわゆるストレッチだ。ストレッチングには動的ストレッチングと静的ストレッチングがあるが、腰痛予防体操として推奨されるのは、筋肉を伸ばした状態で静止する静的ストレッチングだ。腰を中心に、下半身、上半身など、全身のいろいろな筋肉を伸ばすといい。

 実施するのはいつでもかまわないが、「疲労の蓄積度合いに応じて、適宜、腰痛予防体操を実施できるようにすることで、ストレッチングの本来の効果が得られる」とのこと。同じ姿勢を続けないためにも、仕事の合間に小休止して、ときどき実施するといいだろう。気分転換でリラックスできれば、心理的腰痛の予防にもなるはずだ。

効果的なストレッチングを行うポイント
  1. 息を止めずにゆっくりと吐きながら伸ばしていく
  2. 反動・はずみはつけない
  3. 伸ばす筋肉を意識する
  4. 張りを感じるが痛みのない程度まで伸ばす
  5. 20秒から30秒伸ばし続ける
  6. 筋肉を戻すときはゆっくりとじわじわ戻っていることを意識する
  7. 一度のストレッチングで1回から3回ほど伸ばす
(『職場における腰痛予防対策指針』解説より抜粋)

ストレッチングは事務室でもできる

 休憩の合間にストレッチングをするといっても、職場でヨガマットを広げたりすることは難しい。『指針』には、床に座ったり寝転んだりしなくても、オフィスなどで立ったまま手軽に実行する方法が紹介されている。

 なお、痛みなどがある場合には、ストレッチングを始める前に医師と相談しよう。

事務作業スペースでのストレッチング(例)(『職場における腰痛予防対策指針』解説より抜粋)
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「リスクアセスメント」という考え方

 新しい『指針』では、リスクアセスメントという手法を取り入れた。1つ1つの作業について、作業姿勢、実施する頻度、作業環境などを確認し、リスクの大きさを判断する。そして、リスクが大きい作業を見極めて、そこから改善を図ろうということだ。介護作業については、具体的なチェックリスト例も添付されている。

 オフィスワークで作業を1つずつアセスメントするのは難しそうだが、考え方を取り入れることは可能だろう。いつもやっている作業の中で、腰に負担がかかりそうなものはどれか、どのくらい負担になりそうか、頻度が多かったり、時間が長い作業はどれか。リスクが高いものがあれば、台車や踏み台を購入してもらう、椅子を調整する、機器の配置を変えるなど、対策を実施していける。厚労省のガイドラインに沿ったことなら、上司や同僚を説得しやすいだろう。

 また、家庭での作業をアセスメントしてみるのもいい。顔を洗うとき、子どもを抱き上げるとき、車から荷物を取り出すときなど、不自然な姿勢になっていないだろうか。

 自分の身を守るためには、まず、自分が動くことだ。腰痛はできるだけ予防して、快適な暮らしを守っていこう。

この記事は、nikkei BPnetの2014年12月19日付け記事の転載です。