いまなお高いアフリカの妊産婦死亡率
かつて女性にとって妊娠・出産は命がけのイベントだった。日本で最初に妊産婦死亡率(出産10万件あたりの妊産婦死亡数)が算出された1899(明治32)年の値は409.8。出産244件に1人の妊婦が亡くなっていたことになる。
その後、日本では帝王切開などの産科医療の普及や救急医療体制の整備によって、難産で亡くなる人の数は減り続け、1963年の妊産婦死亡率は100以下となる92.7を達成。2007年以降は、世界最高水準の5以下で推移している。
しかし、世界を見渡せば現在でも産科医療の恩恵を十分に受けられず、妊産婦死亡率が高い国は少なくない。WHOは、2013年に地域別の妊産婦死亡率を概算した。中東170、東南アジア190など今でも100以上の地域が存在するが、なかでもアフリカは500と際だって高い。100年以上も前の日本と同様の状態にあるといっていい。
難産から生還した女性を待ち構える産科フィスチュラ
妊産婦死亡率の高い国では、例え難産から命が助かったとしても、さらにつらい運命が待ち構えている。それが「産科フィスチュラ」だ。
フィスチュラ(Fistula:瘻孔)とは、医学用語で外傷・潰瘍などで体内にできた「穴」を意味する。難産(分娩遅延など)のとき、帝王切開など適切な助産措置が受けられないと、分娩は1日以上、ときに1週間以上に及ぶこともある。その多くは死産となるが、このとき胎児の頭部が骨盤を圧迫し続け、産道周辺の血流が滞ることで膣、膀胱、直腸の一部が壊死。その部分に穴が開き、膣が膀胱や尿道、直腸とつながってしまうのが産科フィスチュラだ。
産科フィスチュラになると、適切な修復手術を受けない限り、尿や便が常に膣口から流れ出し(失禁)、皮膚病や腎臓病など慢性的な疾患を引き起こすことも少なくない。長時間の難産によって引き起こされる合併症の中でも、最も深刻な疾患の一つといっていいだろう。

社会から見放され、孤独と貧困を強いられる患者
産科フィスチュラは、先進国ではすでに撲滅されている病気だが、アフリカ、中東、南アジアなど30カ国以上で現在も患者が発生し続け、患者数は少なく見積もった場合でも100万人に達する。米国カリフォルニア州サンノゼに拠点を置く慈善団体「フィスチュラ基金」のCEOケイト・グラントさんは、2017年12月に都内で開催された講演会で開発途上国における産科フィスチュラの現状を報告した。
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- 多くの患者が社会から見放されてしまう