「暴走老人」予備軍にならないために、できること
「自分が正しい」にこだわりすぎない心の柔らかさを――『寛容力のコツ』の著者に聞く(第2回)
柳本操=ライター
下園さん 二つ目は、エネルギーの低下。年を取るほど頑固になる人の多くは、体力、感情コントロール力を含めた「エネルギー」が低下することによって、頑なになるのです。誰かと折り合ったり、自分の考える正義を引っ込めたりするのにも、エネルギーが必要です。だから人は、年を取り、エネルギーが低下すると、変わりたくなくなるのです。ましてや、「俺の言うとおりにしろ、いちいちディスカッションする必要などない」というやり方で成功してきた人は、そのやり方にそれなりの自信を持っているので、変わりにくい。
三つ目が、上下関係のこだわり。怒りが湧くと、原始人的感覚で「俺の方が立場が上だ」という、いわゆるサル山のような上下関係へのこだわりが強くなります。怒りの感情は、上下関係や勝ち負けを決めたがるのも特徴。ですから、よほど精神的に鍛錬をした人でないと、部下の言うことをそのままのみ込むのは「負け」だと感じてしまう。
このような理由から、シニア世代になるにしたがって、寛容力は低下リスクにさらされるのです。ずっと同じ価値観で成功してきた人ほど、これから老後に向けて、感情のコントロールの仕方を工夫していこうと自覚する必要があるでしょう。リタイア後に、これまで自分についてきてくれた人がいなくなると、自信がなくなります。すると、人への警戒心が高まり、うっすらと周囲からばかにされているような気がしてしまう。コンビニや病院で大声を上げて相手を威圧する「暴走老人」のほとんどは、このタイプです。
トラブル時こそ価値観の洗い直しのチャンス
これまで、自分の正義感で突っ走ってきたり、頑固にやってきたりしたという自覚がある人は、どうすれば寛容力を高めていけるのでしょうか。例えば、「価値観」をゆるめるのは難しそうですが、どうすればいいでしょうか?
下園さん 価値観というものは空気と同じで、普段はあまりにも自分にとって当然すぎて、気づかないものです。「自分はこれが正しいと思い込んでいる」という価値観に気づくチャンスはいつかというと、誰かとトラブったときです。相手の価値観はきっとこうなんだろう、でも自分はここが信念だと思っている、というふうに、とことん考えてすりあわせてみると、「そこまで必死でこだわることでもなかったな」と思えることはたくさんあるはずです。本書で紹介している「7つの視点」のように、自分視点、相手視点、第三者視点というふうに視点をあちこちに飛ばしてみるのも有効です。
一方、若い世代は、ネットにすぐに答えを見つけようとせず、現場の先輩や上司と話をして価値観を広げていくことが大切です。それを中年以降になっても謙虚に続けていける人は、寛容力を高めることができ、周囲からの信頼も得ることができるでしょう。