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ささいなことで怒らない「寛容力」のコツ

「暴走老人」予備軍にならないために、できること

「自分が正しい」にこだわりすぎない心の柔らかさを――『寛容力のコツ』の著者に聞く(第2回)

 柳本操=ライター

現場の人と話をする、というお話が出ましたが、やはり直接話をするほうが収穫は大きいのでしょうか。

下園さん 今、コミュニケーション能力の中でも「話を聞く技術」が明らかに低下していると感じます。ディスカッションすることよりも、文字やスタンプだけの簡単なやりとり、あるいは動画のやりとりでコミュニケーションする手軽さが受けている。でも、人間って、それだけでは不十分なのです。私も、メールのやりとりだけでカウンセリングすることは不可能ではないのですが、それをやらないのは、「目の前にいる人に向かって自分の考えを言葉にする」というプロセスの中で、人は自分の信じている価値観や本音を表すことができるのだと思っているからです。

 相手の言葉に対してこちらが言葉を投げかけ、少しずつ気持ちを交わし、考え方、物事の受け止め方を変えていくというプロセスを、カウンセリングでは大切にしています。人と話をすることで自分の思い込みに気づくことも多い。確かに時間がかかるし、面倒ですよ。しかし、収穫は大きい。話すことによる変化を身をもって体験することで、人に対する、一種の“対人恐怖傾向”が和らいでいくのです。

繰り返し話すことで、濃厚な人間関係にも対処できる

カウンセリングに限らず、「互いに面と向かって話す」というプロセスを日常でも丁寧に行うことによって、寛容力も高めていけそうです。

下園さん そうなんです。これを心理学では「単純接触効果」といいます。繰り返し接触をするという経験の回数を重ねることで、人は相手への警戒心を落としていきます。今、若者がどんどん職を変えていく風潮に私は少し危機感を覚えています。少し経験しただけで「この会社はダメだ」「社会はひどい」と結論を出してしまう。3年、5年と勤務して初めて、いいところ、悪いところが分かるのに、最初に「緊張した、嫌なことがあった」という理由で簡単に辞めてしまう。これでは、社会に対しても他人に対しても、ネガティブな印象だけを積み上げていってしまいます。

少しは踏ん張るべき、しかし、無理をしてはいけない、というバランスが難しいですね。

下園さん 今まで私はずっと「無理をするな、休め」というメッセージを発信し続けてきました。しかし、今は、特に若者に対しては「ちょい、頑張れ」と言うようにしています。一度会って、相性が合わなければ二度と会わない、ということが容易にできる社会ではあります。しかし、ずっとその生活をするならいいのですが、人間は会社に入ったり、結婚したり、子どもを育てたり、と、濃厚で密接な関係を築くときがやってくるもの。そのときに、自分にとって都合のいい距離感だけで過ごしてきた人は、その濃厚な関係を前にして「人は怖い」「人はわずらわしい」というネガティブな印象を強く持ってしまいがち。だからこそ、直接対話し、価値観をすりあわせるという一種の「修行」が必要なのです。

         ◇        ◇        ◇

 最終回の次回は、寛容力が低くなる要因として侮れない「疲れ」とその対策について聞いていく。

(インタビュー写真:菊池くらげ)

下園壮太さん
心理カウンセラー、MR(メンタルレスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター
下園壮太さん 1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。1996年より陸上自衛隊初の心理教官として多くのカウンセリングを手がける。自衛隊の衛生隊員(医師、看護師、救急救命士など)やレンジャー隊員などに、メンタルケア、自殺予防、コンバットストレス(惨事ストレス)コントロールについての指導、教育を行う。2015年に退官し、現在は講演や研修、著作活動を通して独自のカウンセリング技術の普及に努めている。近著に『寛容力のコツ』(三笠書房 知的生きかた文庫)がある。公式HP

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