ダイエットやメタボ対策の定番になった“緩やかな糖質制限”ロカボ。このロカボを提唱したのが糖尿病専門医の山田悟さんです。本連載では、山田さんが、ロカボについて医学的根拠から説き起こし、わかりやすく伝えてくださいます。
好評だった本連載も今回が最終回となります。そこで今回は、ロカボの10年間の歩みと山田さんの最新の研究、そして食生活についての考え方を話していただきます。
前回は、糖尿病を放置することによって増していく合併症の怖さについてお伝えしました。失明につながる網膜症、透析につながる腎不全などに至る前、自覚症状がない段階から対策を講じることが大事です。だからこそ血糖値にダイレクトに反映される「食事」をロカボによってコントロールしていくことが大切になるのです。
さて、これまで1年半にわたって続いてきました本連載も今回が最後になります。編集部を通じて、「ロカボ」を実践したら効果が出たといったうれしい声もいただきました。読者のみなさまの健康管理に少しでもお役に立てたことをうれしく思います。最終回となる今回は、ロカボのこれまでの歩みとロカボに関わる私の最新の研究、そして健康維持のための食生活のあり方などをお伝えしたいと思います。

糖質制限食と出会い、広めてきた10年間
私は、ずっと続けられねば絵に描いた餅にすぎなくなるので、健康的な食事法は、健康的であるのと同時に、おいしく、楽しく、続けられるものでなくてはならない、という思いで「ロカボ」を提唱してきました。大きなきっかけは、私が今から16年前に北里研究所病院に赴任した当時に出会った77歳の糖尿病の男性だった、ということはこの連載の第1回でもお話ししました。
当時から糖尿病治療における主流で、現在も主流である「カロリー制限」という食事療法は、肥満に対する減量効果はあるものの、患者さんの我慢を強いるものであり、続かずにリバウンドしてしまう、というのが現実でした。患者さんご自身が続けられない限りは、患者さんの状態を改善する効果がある、とはいえません。
それから6年後の2008年、「The New England Journal of Medicine」という医学雑誌に「ダイレクト試験」の結果が発表されます。そこには、「糖質制限食」と「カロリー制限食」、「地中海食」との比較がされており、この異なる食事法をそれぞれ2年間続けた結果、糖質制限食は、他の食事法よりも、以下のような効果があることが明らかになったのです(N Engl J Med. 2008;359:229-241.)。
●体重が減量できる
●中性脂肪値が下がる
●善玉コレステロールが増える
●糖尿病の人のHbA1c(*1)が改善する
*1 2カ月間の血糖値の平均を見る指標
この画期的な食事法に出会った私は、それから今に至るロカボを広める活動に取り組むことになります。糖質制限に関するさまざまな研究を総合し、「糖質を1食20~40g、それとは別に1日10gまでのスイーツ・間食を食べて、1日の糖質摂取量をトータル70~130gにする」という“緩やかな糖質制限=ロカボ”という食べ方を提案し、実際の糖尿病の医療現場でも実践してきました。

食事を我慢する方法は、自己管理が難しい
これまでダイエットに取り組まれた経験が1回でもある方は、「食事内容を変える」ということの難しさを身にしみて実感されていることと思います。例えば、健康診断前などに、短期間なら節制(我慢)できたものの、健診を終えた途端、元に戻ってしまったという方は少なくないのではないでしょうか。
特に糖尿病は、自覚症状がないまま病気が進行するケースが多いため、食事や運動などの生活改善が難しいとされています。
「さしあたって今、困った不調はないのに、どうして苦しい思いをして食事を我慢しなければならないのか」と思う気持ちは私もよくわかります。
糖尿病では、ご自身の体の状態を客観的に確認し、必要な自己管理法について学ぶ「教育入院」という治療法があります。しかし、教育入院中は体重が落ちてインスリン分泌も回復するものの、退院後に自分で管理する生活に戻ると、いったん下がったHbA1cは3カ月後には上がり始め、6カ月後にはほぼ元通りになってしまう――これが典型的なケースでした。
大切な時間を使い、教育入院という手段をとってその大切さを実感された人でも、食事を我慢する、という方法では自己管理が難しいのです。
だからこそ、ロカボでは、糖質の制限の仕方は「厳格に」ではなく「緩やかに」しています。そして、糖質量だけ気にしていれば後はお腹いっぱい食べていい、という満足感を重視してきました。