ダイエットのために緩やかな糖質制限「ロカボ」を実践している人は多いでしょう。ロカボを提唱したのは糖尿病専門医の山田悟さん。本連載では、「食べる喜びをしっかり味わいながら健康になる」ことが何よりも大事、と話す山田さんが、ロカボについて医学的根拠から説き起こし、わかりやすく伝えていきます。
今回は、前回に引き続き、「高血糖の怖さ」について話を伺っていきます。血糖値は高いのも問題ですが、食後に一時的に急上昇する「食後高血糖」も大いに注意する必要があるのです。
健診で血糖値が「正常範囲内」でもセーフではない
前回は、糖質を過剰に摂取するという習慣が、肥満はもちろん、糖尿病、脂質異常症、高血圧、動脈硬化、がん、老化など様々な病気への出発点となることをお話ししました。
私がこの話をすると、よくこんな質問を受けます。それは
「健診を受けたときに、私は空腹時血糖値が“正常範囲内”でした。その場合は、糖の処理能力があるということですから、特に糖質を控える必要はないのでは?」
というものです。確かに、健診結果で血糖値に異常が見られなければ、何か指導を受けるといったことはありません。
実はここにも、血糖値に対する大きな誤解があります。通常の健診結果だけでは見落としてしまう、怖いリスクが存在するのです。

空腹時血糖値とは文字通り、お腹が空っぽの空腹時に測定した血糖値のことで、会社などの健康診断で測定されるのはこの数値です。健診結果を見れば必ず載っていると思います。健診では通常、空腹時血糖値とHbA1c(ヘモグロビンA1c=2カ月間の血糖値の平均を見る指標)の2つを測定します。
- 一般的に血糖値に問題がない(正常型)と判断される基準値
- ロ 空腹時血糖値 110mg/dL未満
- ロ 食後血糖値(*) 140mg/dL未満
- ロ HbA1c 6.2%未満
- 「腹囲や体重で問題がある場合」における
血糖値に問題がないと判断される基準値 - ロ 空腹時血糖値 100mg/dL未満
- ロ HbA1c 5.6%未満
お気づきと思いますが、実は、腹囲や体重で問題がある方では、本来の正常値よりも厳しい基準値が設定されています。その理由は、空腹時血糖値に異常が出るはるかに前から、空腹時血糖値とは“別の血糖値異常”が生じ、そのことだけで様々なトラブルが生じることが知られているからです。
問題なのは、この空腹時血糖値に異常が表れるのは、「限りなく糖尿病に近くなったとき」であるということ。つまり、気づいたら手遅れ…という事態になりかねないのです。
悪化して糖尿病を発症してしまって初めて気づくよりも、異変が起こり始めたときにすぐに気づき、対策をとり、それ以上の悪化を防ぐことが大切なのは、言うまでもありません。
そのためのキーワードとなるのが、「食後高血糖」です。先ほどの“別の血糖値異常”とは「食後高血糖」のことなのです。