ダイエットやメタボ対策の定番になった“緩やかな糖質制限”ロカボ。このロカボを提唱したのが糖尿病専門医の山田悟さんです。本連載では、「食べる喜びをしっかり味わいながら健康になる」ことが何よりも大事、と話す山田さんが、ロカボについて医学的根拠から説き起こし、わかりやすく伝えていきます。今回のテーマは、食事とともに重要な「運動」について。運動は肥満解消や健康維持と大きく関係していることは周知の通りですが、血糖値の面でもうれしい効果をもたらしてくれます。
忘れてはいけない「運動」の効果
本連載ではこれまで、血糖値の上昇を抑えるために「どう食べるか」ということを主にお話ししてきました。
食事などでとった糖質が血糖値上昇に直接関係するわけですから、まず注意すべきは「食べ方」です。摂取する糖質を1食当たり20~40g程度に抑える“緩やかな”糖質制限「ロカボ」を実践すれば、血糖値の上昇は緩やかになり、食後に急激に血糖値が上昇する「食後高血糖」のリスクを抑えることができます。
しかし、食べ方とともにもう一つ、忘れてはならないポイントがあります。それが、体を動かすこと、つまり「運動」(あるいは「身体活動」)です。運動により、通常とは別の“糖の取り込みルート”を活性化でき、血糖値の上昇を抑えることができるのです。
実際のところ、毎食ロカボを実践することは難しいという方もいらっしゃると思います。おいしい糖質の多い食材が目の前に並んでいるとついつい食べ過ぎてしまいますし、付き合いで食べなくてはならないこともあります。「つい糖質を食べ過ぎてしまった。少しでも血糖値の上昇を抑えられないものか…」という経験は誰しもあると思います。そんなときにも、ぜひ実践していただきたいのが運動です。
なお、「身体活動」とは、エネルギー消費を起こす筋肉の動きのすべてを指します。「運動」は「身体活動」の一部であり、身体能力の維持・向上を目的として行う組織だった身体活動のことを言います。特別な器具を使わなくても、特別に洋服や靴を着替えなくても、健康のためにとエレベーターを使わずに階段を使うだけで「運動」と言ってよいのです。
運動は糖尿病のリスクを下げる!
私が日々患者さんに対面して行っている糖尿病医療においても、「運動指導(運動療法)」は外せないポイントです。「食事療法」「薬物療法」と合わせて糖尿病治療の3本柱になっています。
日常生活における身体活動量の増加(つまり運動の実践)は、2型糖尿病の予防につながります。
定期健診受診者の7年間の運動能力(有酸素能力)の変化と糖尿病の関係について調査した国内のコホート研究(東京ガス・スタディ)でも、「運動能力を維持・向上させている人は、運動能力が低下している人と比較して糖尿病に罹患しにくい」という結果が出ています(下のグラフ)。

糖尿病や糖尿病予備群と診断されている人はもちろん、血糖値が気になる一般のビジネスパーソンの方もぜひ実践していただきたいのが運動なのです。そこで今回は「運動と血糖値の関係」についてお話ししましょう。