今、緩やかな糖質制限を示す「ロカボ」という言葉が世の中に広く浸透しつつある。ダイエットのため、それに血糖値対策のためにロカボを実践している人も多いだろう。ロカボを提唱したのは、糖尿病専門医(北里大学北里研究所病院糖尿病センター長)で、食・楽・健康協会の代表理事を務める山田悟さんだ。
広く普及したように見えるロカボだが、山田さんは「主食を食べちゃいけないの?」「油やカロリーのとりすぎになって、かえって体に悪いのでは?」など、誤解されている面も多いと話す。日々1300人の患者と向き合う中で、「食べる喜びをしっかり味わいながら、健康になる」ことがなにより大事だと話す山田さんがロカボについて医学的根拠から説き起こし、わかりやすく伝えていきます。
ロカボは患者への「無念」から始まった

私は糖尿病専門医で、総合内科専門医です。
現在、「緩やかな糖質制限食=ロカボ」という考え方を普及させることによって、「健康になりたいなら食事を我慢しなさい」「おいしいものを食べたら不健康になる」という考え方を、「おいしく、楽しく食べて健康になれる」という考え方に大きくシフトチェンジし、多くの人が健康になれる、そして社会全体の医療費、社会保障費を大きく削減する、という夢を掲げて医療と啓発活動を行っています。
私は、「ロカボ」を以下のように定義しています。
- 【ロカボとは?】
糖質を1食20~40g、それとは別に1日10gまでのスイーツ・間食を食べて、1日の糖質摂取量をトータル70~130gにするという食事法。気にする必要があるのは糖質のみで、血糖値を上げないたんぱく質や油は満足するまで食べてよい。
ごはん、パンなどの主食をとってもOKだが、量は“緩やかに”制限する。主食の1食当たりの目安はごはんなら軽くお茶碗半分、食パンなら6枚切りを半分か1枚程度。おかずでは芋類など糖質の多いものは控える。

現在の日本人は平均的に、1食で90~100g、1日270~300gの糖質をとっています。ロカボでは糖質をその半分弱程度に抑える必要がありますが、あくまでも「緩やか」な糖質制限であるため、糖質も制限内におさめれば食べて大丈夫です。このロカボ食を続けることによって、
- おいしいものをおなかいっぱい食べられるから、無理なく続く
- 引き締まった体形になる
- 血糖値が改善
- 血中脂質が改善
- 血圧も改善
と、うれしい変化が起こります。
第1回目の今回は、そもそも私がなぜこれほどまでに「ロカボ」にのめりこむようになったのかについて、お話をさせてください。
今から15年前、私が北里研究所病院に赴任したときに出会った77歳の糖尿病の男性は、非常にストイックに自らを律する力のある患者さんでした。
治療成績もよく、2カ月間の血糖値の平均を見る指標「HbA1c(ヘモグロビンA1c)」もほぼ正常値をキープできていました。ところがある日、とても暗い表情をされているのです。
「どうされましたか?」と聞いてみると、その男性の喜寿のお祝いがあり、家族が祝いの席を用意してくれたそうです。しかし、周囲のみんなはフルコースを食べていたのに自分だけはワンプレートのお子様ランチのような食事しか食べられなかった。
「どうして自分は家族と同じものを食べてはいけないのだろう。お祝いの席なのに、思い切り食事を楽しむことができないことが本当に悲しく、悔しかった」とおっしゃったのです。
これまで、そういう患者さんがいなかったわけではありません。
もうすぐ会食がある、という患者さんには「その日ぐらいは羽目を外してください」という言い方をしていました。ところがその男性の場合は、もう会食のイベントは終わっており「好きなものを食べてもよかったんですよ」と言うと、その男性の努力と我慢をばかにすることになる。わざわざ男性のための食事を料理人に相談し用意をされたご長男の思いを踏みにじることにもなる。私には、返せる言葉がないのだ、ということに気づきました。
この記事の概要
BACK NUMBERバックナンバー
RELATED ARTICLES関連する記事
からだケアカテゴリの記事
-
「ひらめき」は自分だけでは生まれにくい! 「他者を巻きこむ」のが大事
脳科学者に聞く「脳」の活性化術
-
薄毛、抜け毛、細毛… 「髪の悩み」対策は「頭皮」から
頭皮の真実
-
「片頭痛」の治療、新薬で大幅進化 日常生活に支障をきたしたら我慢は禁物
医療・健康トレンドピックアップ
-
尿酸値がなかなか下がらない! どのタイミングで受診すべき? 「尿酸値」を下げれば体が変わる
-
口が開かない、音が鳴る「顎関節症」 原因はあのクセ? 働くオンナの保健室
-
歯周病ケアに活用したい「洗口剤」 選び方、使い方のコツは? Goodayクイズ
-
なんと入居5カ月で入院、母はホームに戻れるのか? 母さん、ごめん 2
-
ストレスを跳ね返して撃退する! そんな強い味方、「レジリエンス」を知ろう 東京・大手町の精神科医 Dr.五十嵐の診察室・番外だより
-
効率的に「お腹を凹ませる」トレーニング テーマ別特集
-
「尿酸値」を下げる食事 専門医が語る7つのポイント 「尿酸値」を下げれば体が変わる
FEATURES of THEMEテーマ別特集
-
- 効率的に「お腹を凹ませる」トレーニング
-
中年にもなると、お腹がぽっこり出てくるのが気になる人も多い。特に薄着の季節になると、お腹が出ているのが気になり、何とか短期間で凹ませたいと思う人は多いだろう。しかし、スポーツジムでしっかり運動するのはつらいし、運動する時間を確保するのも大変だ。そこで、今回のテーマ別特集では、効率よくお腹を凹ませるために知っておきたい「内臓脂肪」の落とし方と、トレーニングのコツ、そしてお腹を凹ませる「ドローイン」のやり方について解説しよう。
-
- 脳を衰えさせる悪い習慣、活性化する良い習慣
-
「もの忘れがひどくなった」「単語がスッと出てこない」「集中力が落ちてきた」……。加齢とともに脳の衰えを実感する人は多いだろう。「このままだと、早く認知症になるのでは?」という心配が頭をよぎることもあるだろうが、脳の機能は加齢とともにただ落ちていく一方なのだろうか。どうすれば年齢を重ねても健康な脳を維持できるのか。脳に関する興味深い事実や、健康な脳を維持するための生活習慣について、過去の人気記事を基にコンパクトに解説していく。
-
- 疲労解消は「脳の疲れ」をとることから
-
しつこい「疲労」の正体は、実は脳の自律神経の機能の低下であることが近年の疲労医学の研究で明らかになってきた。本記事では、放置すると老化にもつながる「疲労」の怖さとその解消法を、過去の人気記事を基にコンパクトに解説していく。
スポーツ・エクササイズSPORTS
ダイエット・食生活DIETARY HABITS
からだケアBODY CARE
医療・予防MEDICAL CARE
「日経Goodayマイドクター会員(有料)」に会員登録すると...
- 1オリジナルの鍵つき記事
がすべて読める!
- 2医療専門家に電話相談できる!(24時間365日)
- 3信頼できる名医の受診をサポート!※連続して180日以上ご利用の方限定
お知らせINFORMATION
SNS
日経グッデイをフォローして、
最新情報をチェック!
人気記事ランキングRANKING
- 現在
- 週間
- 月間
-
発達障害と遺伝 小児科医が考える「最悪の虐待」とは何か? もっと教えて!「発達障害のリアル」
-
薄毛、抜け毛、細毛… 「髪の悩み」対策は「頭皮」から
頭皮の真実
-
「ひらめき」は自分だけでは生まれにくい! 「他者を巻きこむ」のが大事
脳科学者に聞く「脳」の活性化術
-
怖い「膵臓がん」 早期発見のために知っておきたい4つの危険因子 「膵臓がん」早期発見への挑戦
-
筋肉を減らさない食事、やってはいけないことは? Goodayクイズ
-
尿酸値がなかなか下がらない! どのタイミングで受診すべき? 「尿酸値」を下げれば体が変わる
-
腎臓は壊れてしまうと、元には戻せない! 尿のトラブルSOS
-
歯科検診を定期的に受けている人は動脈硬化のリスクが低い
話題の論文 拾い読み!
-
なんと入居5カ月で入院、母はホームに戻れるのか? 母さん、ごめん 2
-
「尿酸値」を下げる食事 専門医が語る7つのポイント 「尿酸値」を下げれば体が変わる