ダイエットやメタボ対策の定番になった“緩やかな糖質制限”ロカボ。このロカボを提唱したのが糖尿病専門医の山田悟さんです。本連載では、「食べる喜びをしっかり味わいながら健康になる」ことが何よりも大事、と話す山田さんが、ロカボについて医学的根拠から説き起こし、わかりやすく伝えていきます。今回のテーマは「睡眠とロカボ」。実は緩やかな糖質制限(ロカボ)を習慣にすると、昼間眠くなりにくくなったり、夜間の眠りの質を改善できる可能性があるのです。
前回は、「適度な飲酒が血糖値上昇を抑える可能性がある」という興味深い内容をお伝えしました。そして今回も朗報があります。緩やかな糖質制限(ロカボ)を実践すると、昼間に襲ってくる睡魔を防いだり、「睡眠時無呼吸症候群」を改善できる可能性があるのです。

連載の第7回では、私がロカボの啓発活動のために代表理事を務めさせていただいている「食・楽・健康協会」が、タクシー会社の日の丸交通、コンビニエンスストアのローソンと共同で行った「メタボ社員ZEROプロジェクト」という取り組みについてご紹介しました。
この取り組みでは、健康診断でメタボと判定されたタクシー運転手さんなどに、3カ月間、ロカボ食にトライしていただきました。
運転手さんなどが行ったのは、おにぎりや弁当のごはんを減らす一方で、低糖質パンをはじめ、低糖質食材の主食を増やし、おかずも増やして、空腹は決して我慢しないという「ロカボの実践」です。その結果、糖尿病の指標であるHbA1c(*1)の値が低下しました。なかでも、血糖異常が見られ、かつ積極的に体質を改善したいという意志のあった人に絞り込むと、「HbA1cが0.9%と大幅にダウン」といううれしい結果が得られました。これは、かなり強力な飲み薬か注射薬を使った場合と同等の改善なので、相当な効果があったといえます。
昼間に過剰な眠気、もしかしたら睡眠時無呼吸症候群では?
実はこのプロジェクトで、もう一つ私が調べたいと考えたのが、ロカボと「睡眠時無呼吸症候群」についてです。
「睡眠中に、上気道(特に咽頭部)が狭くなり、10秒以上の無呼吸が起こり、大きないびきをかく」というのが睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状です。眠っているため、本人はいびきや無呼吸に気づくことができませんが、昼間に過剰な眠気が起こったり、眠ったはずなのにすっきりしない、全身の倦怠感など、つらい自覚症状が起こります。読者のみなさんの中にも「もしかしたら、自分も睡眠時無呼吸症候群なのでは…」と不安に思っている方もいらっしゃると思います。
欧米、オーストラリア、アジアなどでの複数の研究から総合的に判断すると、5人に1人は軽症の、さらに15人に1人は循環器疾患の発症リスクが高まる中等度以上の睡眠時無呼吸症候群であると考えられています。
そして、大きな問題となっているのが診断率です。わが国では、睡眠時無呼吸症候群と推測される人の何と85%以上が未診断のままになっているのです。上記のように、自分では気づきにくいという面がある上に、気になったとしても病院に行く人は少数なのです。