右肩上がりに急増中!「炎症性腸疾患」ってどんな病気?
安倍首相も患う難病、下痢や血の混じった便、腹痛が続いたら病院へ
柳本 操=ライター
「第2の脳」と呼ばれるほど、複雑かつダイナミックな働きをしている腸。この腸の病気が、近年になって急増しているという。腸にはどのような病気があるのだろうか。特に患者数の増加が著しく、安倍首相が患った病気としても知られる「炎症性腸疾患」とは何だろうか。炎症性腸疾患治療の第一人者である東京医科歯科大学理事・副学長の渡辺守さんに解説してもらった。
脳に匹敵するほど多様で大切な腸の働きと、腸の健康を保つために知っておきたい病気や検査について取り上げる本特集。前回の記事「腸はただの『管』じゃない! その驚くべき働きとは?」では、腸が栄養分の吸収や排泄を行う以外にも、生命維持に欠かせない免疫機能を持ち、精神の安定や食欲の調整を司るホルモンを作り出すといった多様な働きをしていることを紹介した。
このように複雑な性質を持つだけに、ストレスフルな生活や偏った食生活などにより腸に負担がかかると、病気が発生しやすくなるようだ。
「近年、消化器の病気は様変わりしています。これまで、消化器の病気といえば胃や肝臓の病気が多くを占めていたのですが、ピロリ菌と胃がん、またC型肝炎と肝臓がんの因果関係が明らかになり、治療法も確立。その結果、胃がん、肝臓がんは減少の一途をたどっています。その一方で、腸の病気は現場の医師も驚くくらい患者数が増えているのです」と、東京医科歯科大学消化器内科教授で理事・副学長の渡辺守さんは話す。
腸の病気は炎症性・機能性・腫瘍性の3タイプ
腸の病気というと、大腸がんや大腸ポリープなど、「腸にできものができる」病気を思い浮かべる人が多いだろう。だが、「そうした『腫瘍性』の病気のほかにも、腸に傷やただれができる『炎症性』の病気や、できものやただれなど目に見える病変はないのに腸の働きが悪くなる『機能性』の病気があります。腸の病気は大きく3つのタイプに分かれるのです」と渡辺さんは説明する。
「炎症性の腸疾患では、腸の粘膜に傷やただれなどの炎症が生じて、そのために腸が正常に動かなくなります。機能性の腸疾患の場合、検査をしてもこれといった病変は見られないものの、腸の働きに問題が現れ、下痢や便秘などの排便障害が起こります。腫瘍性の腸疾患には主として大腸がんと大腸ポリープがあり、大腸ポリープの大半は良性のものですが、中にはがん化していくものもあります。早期発見が重要です」(渡辺さん)。
腸の病気は3タイプ
炎症性腸疾患
感染性腸炎、薬物性腸炎←急性、原因が明らかなもの
潰瘍性大腸炎、クローン病←慢性的、原因が不明なもの
【症状】下痢、血便、腹痛
機能性腸疾患
過敏性腸症候群
【症状】下痢、便秘、腹痛や腹部の不快感(排便すると楽になる)
腫瘍性腸疾患
大腸がん、大腸ポリープ
【症状】早期では肉眼でわからないくらいの出血(便潜血)