“介護いらず”の切り札に!? 「体」と「脳」を一緒に鍛えるデュアルタスク運動
簡単そうで実は難しい! ゲーム感覚で楽しめる運動3選
北村昌陽=科学・医療ジャーナリスト
健康寿命の延長につながる運動法を紹介する本特集。「動脈硬化」「糖尿病」「運動Q&A」と続けてきたが、最終回である今回のテーマはズバリ「脳」。認知症や寝たきりを防ぎ、改善する作用において、大きな期待が寄せられる新しい運動=「デュアルタスクトレーニング」を紹介しよう。
10年ほど前に一大ブームとなったフィットネスゲーム「Wii Fit」(ウィーフィット)の監修者であるパーソナルトレーナーの松井薫さんは、最近、「介護予防」を狙った運動指導に力を入れている。
介護予防とは、要介護状態になることを防ぎ、介護を受ける期間をできるだけ短くすることを指す。健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間、すなわち「健康寿命」を延ばすことにもつながる。平均寿命が男女ともに80歳を超える今の日本では、単なる長寿以上に、「健康で長寿」=健康寿命を延ばすことに価値があるのは、異論のないところだろう。
健康寿命を損なう代表的な問題が「寝たきり」と「認知症」だ。多くの高齢者が、脳卒中や転倒からの骨折をきっかけに寝たきりになったり、認知症が進んだ状態での生活を送っている。
こうした問題への対策として、運動はかなり有望視されている。たとえば認知症を招く最大の原因疾患であるアルツハイマー病の発症リスクを調べた研究によると、日ごろからよく運動している人のリスクは、ほとんどしない人の半分ほどまで下がるという(Psychol Med. 2009;39:3-11.)。ほかにもさまざまな医学研究から、運動をよくする人ほど、認知症や寝たきりになりにくいという傾向が明らかになっている。
では、どんな運動がいいのか。「寝たきり」と「認知症」の両方を抑える可能性があるとして、今、注目を集めているのが「デュアルタスクトレーニング」だ。
「歩行中に会話をすると足が止まる」のは、脳が衰えた証拠
「デュアルタスクとは、2つのことを同時にすること。日常生活の中でいうなら、『歩きながら本を読む』『テレビを見ながら会話をする』などです」。松井さんはこう説明する。

デュアルタスクで行動しているときは、脳の中の「前頭葉」が活発に働く。ここは大脳の司令塔にあたる部位。複数の行動を同時にコントロールする際の中枢である。
松井さんは介護予防主任運動指導員として、認知症や寝たきり対策のエクササイズ指導を行っている。松井さんによると、デュアルタスクで物事をこなす能力は、年と共に衰える場合が多いという。
「例えば、歩いている人に話しかけるとしましょう。通常は、歩きながら会話できますが、高齢になると、会話を始めると足が止まってしまう人が出てきます」(松井さん)。