かつての健康食材「マーガリン」が体に悪く、逆に体に悪いといわれた「バター」が健康的? 変わりゆく油の見解を、その歴史からひも解いていこう。食と健康の最新研究を追う、米国在住の医師・大西睦子さんが解説します。
56年たって敵から“味方”に、がらりと変わったバターへの評価
脂質が米国人の健康の敵となったのは、1961年1月13日と推測されます。この日、米ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士が、雑誌『TIME』の表紙を飾り、全米で話題となりました。博士は食生活と心疾患との関係に着目し、日本を含む7カ国の国民の調査を行いました。その結果、飽和脂肪酸*を多く摂取する国で心疾患が多いと結論づけました。
1970年代になると、多価不飽和脂肪酸は悪玉(LDL)コレステロールを減らし、善玉(HDL)コレステロールを上げるなど、脂質の種類によって血中コレステロールに対する影響が異なることが示されました。
こうした研究結果があったにもかかわらず、1980年代、90年代の「米国人のための食生活指針」は、総脂肪摂取量の減量に焦点を置きました。低脂肪や無脂肪をうたって砂糖や炭水化物を増やした食品が増え、米国人の肥満問題が悪化しました。
1997年、米ハーバード大学フランク・フー博士らは、大規模な疫学研究で、摂取する飽和脂肪酸のうちわずか5%を不飽和脂肪酸に置き換えると、心疾患のリスクの1つが42%も減ることを示しました。この報告はメディアでも報道されましたが、それでも多くの米国人に低脂肪(ローファット)ダイエットが定着していました。