腎機能の低下は生命の危機、症状が出てからでは遅い
第1回 腎臓の働きと慢性腎臓病(CKD)
塚越小枝子=フリーライター
腎臓が傷ついたり、働きが低下したりする「慢性腎臓病(CKD)」の患者数は約1300万人にも上るといわれている。透析患者も32万人を超え、この40年間でなんと25倍に増加した。慢性腎臓病は重症になるまで自覚症状が出ないため、検査値の異常を放置していると、いつの間にか、腎不全だけでなく脳卒中や心筋梗塞のリスクが上昇する怖い病気だ。本特集では、知っているようで知らなかった腎臓の役割と慢性腎臓病の怖さ、そして今からできる腎臓ケアの方法を解説する。
腎機能の低下は生命の危機、症状が出てからでは遅い
第2回 腎機能の検査値を正しく理解しよう
「尿たんぱく」と「クレアチニン」は必ずチェック!
第3回 慢性腎臓病の治療と予防
残された腎機能を“長持ちさせる”ことはできる
メタボ(メタボリックシンドローム)やお酒の飲みすぎが気になり、「普段から血圧や血糖値、コレステロール、肝機能などには気を遣っている」というあなた。では、自分の腎機能の数値はどのくらいか、知っているだろうか?
そもそもあなたは今日、塩分を何グラムとっただろうか? ではカリウムは? リンは?
「私たちが毎日意識せずに何でも好きなように飲んだり食べたりできるのは、実は、腎臓がリアルタイムで体内環境を調整してくれているおかげなんです」と話すのは、腎臓病のスペシャリストである、地域医療機能推進機構東京高輪病院院長の木村健二郎さんだ。
腎臓がろ過する血液は1日に2Lペットボトル72本分

腎臓は、背中側の腰より少し上の辺りに左右一つずつある、そら豆のような形をした臓器。胃腸や心臓などと違って、普段、その存在を意識することはあまりないが、全身の血液をろ過して体に有害な老廃物を排出したり、その他体内環境を最適に保つという、とても大切な役割を担っている。
一つの腎臓には「糸球体」と呼ばれる毛細血管の塊を含む「ネフロン」というユニットが約100万個も詰まっている。ここに血液が流れると、糸球体がフィルターの役割を果たして、体内で生じた老廃物や余分な水分をろ過し、尿を作り出す。一方、体に必要なたんぱく質や赤血球は、粒子が大きいためろ過されず、再び体内に戻っていく。
糸球体がろ過する血液の量は、1分間当たり平均100mL。1日に換算すると実に144 L(2Lのペットボトル72本分)にもなる。そのうち約99%が体に再吸収され(このとき、いったんろ過されたアミノ酸やブドウ糖なども再吸収される)、残った1%が老廃物を含む尿として排出される(図1)。
24時間休みなく、体内の水分や電解質を細かく調節
飲んだり食べたりすれば、体内に塩分や水分が取り込まれ、そのつど体内の環境が変化する。たとえば、水を飲むとそのぶん血液が薄まり、浸透圧が下がる。するとその変化を脳が感知して、脳下垂体からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が減り、これによって腎臓から排泄される水の量が増え、その結果尿量が増える。
塩分(ナトリウム)やカリウム、リン、カルシウムなどの電解質も、常に血液中の濃度を一定に保つために、腎臓が余分な成分を尿と一緒に捨てているため、体内の環境が常に一定に保たれているのだ。
体液のpHバランスの調節も、腎臓の重要な役目だ。通常の生活を送っていると体内に酸や老廃物が発生して体液が酸性に傾いていくが、腎臓が尿の成分や量を調整することによって、弱アルカリ性に保たれている。
さらに、腎臓は赤血球をつくるホルモンや血圧をコントロールするホルモンを分泌する役割や、骨の維持に不可欠なビタミンDを活性化する役割も担っている。
「腎臓は24時間休みなく、様々な成分をそれぞれ別個に調節し、細胞が正常に働くのに最適な環境を保っています。いわば非常に精密にできているろ過装置。普段は存在を主張しない地味な臓器ですが、生命を維持するためになくてはならない臓器なのです」(木村さん)
地味だけどすごい! 腎臓の果たす大事な役割
- 老廃物の排出
- 体内の水分量(血液量)、電解質バランス、pHバランスの調整
- 赤血球をつくるホルモンや血圧をコントロールするホルモンの分泌
- 正常な骨の維持に不可欠なビタミンDの活性化
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