なぜ心の傷に応急手当てが必要か【ガイ・ウィンチ氏】
「NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法」著者インタビュー(1)
柳本操=ライター
あらゆる分野で先陣を切る登壇者が、そのアイデアを世界に広める「TEDトーク(TED Talks)」において、「感情にも応急手当てが必要」と題したプレゼンテーションが430万回以上再生されているのが、心理学者ガイ・ウィンチさん。ガイさんの著書『NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法(原題:EMOTIONAL FIRST AID)』は世界20カ国で翻訳されるなど反響を呼んでいる。来日したガイさんに、私たちが忘れがちな“心の傷”の手当ての大切さ、悩み多き現代人が自らを癒やすヒントについて聞いた。

心の傷を放っておくと、体にも深いダメージを及ぼす
ガイ・ウィンチさんは、現在、ニューヨーク・マンハッタンで開業し、20年以上にわたって心理療法を実践する心理学者だ。2016年12月には、TEDトークを紹介するNHKの番組「スーパープレゼンテーション」に出演、優しく、ときには熱い口調で「こんな世界を想像できますか? あらゆる人が心理的にもっと健康になったら? 孤独や落ち込みをそれほど感じないでいられたら? 失敗の克服法を知ったら?…」と、心の手当てについて語る講演が多くの人の胸を打った。
彼は著書『NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法』の中で、「私たちは、体の不調はうまく手当てができるのに、どうして心の不調になるとお手上げになってしまうのか」と問いかける。そしてその答えは「私たちは心の手当てを学んでこなかったからだ」という。
確かに、風邪を引いたら、10歳の子どもでも、温かくしてたっぷり眠ることが大切だ、と知っているだろう。転んで擦り傷を作ったら、すぐに傷口を洗ってばんそうこうを貼る――このような手当てを、誰もが当たり前のように実践することができる。
一方、心の手当てのほうは――?
もちろん、身近な人を亡くす、解雇される、といった大きなダメージの場合は、誰もが「なんらかの心のケアが必要」と感じるはずだ。
しかし、私たちは普段の生活で、もっと小さな、「失敗」「孤独感」「罪悪感」といった、いわば擦り傷や切り傷を繰り返している。そして、そのような「心の傷」を見ようとせずに放置することによって、あたかも傷が化膿(かのう)するように、心の傷がじわじわと私たちの精神状態をむしばむことがある、とガイさんは考えている。