部下がメンタル不調 そんなときの上司・会社の対処法
第36回 メンタルクリニックなどに通院しながら勤務している社員へのサポート
奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
とはいえ何も説明がないと現場のメンバーも納得できないでしょうから、説明をするとしても、「○○さんは体調不良のため、会社の判断で〇〇、〇〇の業務配慮をしばらく行います」程度の説明にとどめておくのがよいでしょう。
休職の診断書が出たら、速やかに休職させる
通院中の社員のメンタル不調が悪化し、欠勤や遅刻などの勤怠不良が月に何日にも及んでくる場合があります。そのような場合は、主治医から「休職を要す」「自宅安静が必要」などの診断書が提出されるケースがほとんどです。このような診断書が提出されたら、即時休職が鉄則です。
企業に課せられた安全配慮義務(労働契約法第5条)上、主治医が「休職が必要」と診断している社員を働かせることは絶対に避けなければなりません。申し送りや次の担当者が決まるまでということで、休職の診断書が出ても何週間も勤務させている会社がまれにあるようですが、もしそれによって病状が悪化した場合は重大な安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
どうしても申し送りが必要な場合は、当該社員と相談して本人が快くOKしてくれた場合のみ、本人にとって負担のない時間帯に、体力的にも消耗しない方法(自宅からのメールや電話などを活用)にとどめるなど配慮が必要です。
もちろん休職に入った社員は業務を免除されて自宅で安静にすることが必要な状態ですので、傷病手当書類などの事務的な用件でメール・電話で連絡をとる以外は、仕事に関する内容を問い合わせするのは基本的には控えなければなりません。
契約や就労規則に合わない診断書の場合、どうすれば?

病状が悪化して欠勤や遅刻が続くようになった社員が、休職の診断書ではなく、まれに「当面の間、週3日程度の勤務が望ましい」とか、「午前中の勤務を免除することが望ましい」などという変則的勤務を指示する主治医からの診断書を提出してくる場合があります。同様に、休職していた社員が復職を希望してきた際に、このような「条件付きでの復職可」の診断書を提出する場合もあります。
時間や日数で契約しているパート社員の場合は診断書の指示に無理なく従える場合が多いでしょうが、問題になってくるのが週5日フルタイム勤務として契約している正社員や契約社員の場合です。
多くの場合、人事担当者が「この診断書どおりにしないといけないのか」「労働契約と大幅に異なるうえ、現場が混乱しかねない」と頭を抱えることになります。
結論から言うと、こういった場合は主治医の診断書の指示に、「むやみに」「即時」従う必要はありません。この社員は、「週5勤務」や「フルタイム勤務」が難しい健康状態であるという医師からの「意見」として受け取り、会社としてまず「どこまでの配慮が可能かどうか」を検討します。その結果、もし「週3勤務や半日勤務を会社として認められる」という結論になれば、もちろん実行しても構いません。
ただし1人の社員に変則的勤務を認めると、今後全ての社員に認めなければならないという平等性の担保が必要になってきます。また変則勤務中の給料体系はどうするのか、変則勤務は何カ月まで認めるのかといった細かなルール作りが必要になってきます。また現場での仕事の割り振りや時間管理も複雑になってきますので、現場の管理職がそのマネジメントを正確に実行できる余裕があるかどうかの確認も必要です。
前例がないような変則勤務を認めるかどうかは、就労規則や契約に関わる検討事項も入ってくるため、顧問弁護士も入れて入念に検討した方がよいでしょう。検討が長引く時は、安全配慮義務が十分に実行できないために、当該社員はひとまず自宅待機してもらうと安全です。
検討の結果、主治医の診断書にあるような「日数の軽減勤務」や「時短勤務」の実施が会社として難しいという結論になった場合は、安全配慮義務上、一度休職してもらい(復職希望の社員の場合は休職を延長し)、会社が求める最低限の就労が可能となる健康状態に回復するまで自宅療養してもらうという判断もあり得ます。この場合は当該社員に丁寧に社の方針を説明したのち、先述した方法で主治医にコンタクトをとって事情を説明し、休職の診断書の発行を検討してもらうとよいでしょう。
以上、筆者が日々産業医業務で実践しているメンタル不調社員の対応を列挙してみました。ご参考になさってください。
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