実は「無」にならなくていい。マインドフルネス瞑想の本当のコツ
「無常」を体験することで心がラクになる効果が…
秋の訪れが濃厚に感じられる頃となりました。あなたの心と体はお元気でしょうか?こんにちは、精神科医・産業医の奥田弘美です。前回「タイ洞窟救出劇から マインドフルネス瞑想を考える」から引き続き、近年話題になっているマインドフルネス瞑想(めいそう)について考察してみたいと思います。
少年たちがやったであろう「ヴィパッサナー瞑想」とは

まず前回の簡単な振り返りから。今年6月下旬から2週間以上にわたってタイの洞窟に閉じ込められた12人の少年たちを、25歳のサッカーコーチ、エカポン・チャンタウォーンさんが素晴らしいリーダーシップを発揮して、誰一人としてパニックに陥らすことなく見事に統率しました。
エカポンコーチについて調べてみると、彼は少年時代に出家し、瞑想修行を10年以上にわたって行ってきた、非常に高潔なマインドを持つ青年であること、またその献身的な指導ぶりから、少年たちとの信頼関係も日ごろから厚かったことが分かりました。エカポンコーチは洞窟の中では仏教式の瞑想法を活用すると同時に、ネガティブな表現を避けポジティブな言葉で少年たちを励まし続けたようです(詳しくは前回の記事「タイ洞窟救出劇から マインドフルネス瞑想を考える」をご覧ください)。
エカポンコーチが実践していた仏教式瞑想法とは、「ヴィパッサナー瞑想」と呼ばれているものだと考えられます。ここ数年、わが国でも話題となっているマインドフルネス瞑想の代表的な方法の一つです。簡単に解説すると次のような瞑想法です。
<ヴィパッサナー瞑想のやり方>
(1)
床に座布団や布を敷いてあぐら座りして、背筋を伸ばす。あぐらがかけない環境のときは、椅子に背筋を伸ばして座る。手は膝の上にそっと重ねて置く。
(2)
目を閉じて、鼻から息をゆっくり吸い込みながら、鼻先を意識する。空気が鼻腔を通る「感覚」を最も感じやすい場所を一つ決めて、そこで呼吸の空気の流れを感じる。
(3)
空気が入ってきたこと、そして出ていくことを鼻先の一点で「感じ」そして「呼吸をしていることに気づく」。ヴィパッサナー瞑想では、この作業をひたすら繰り返す。
(4)
途中で思考や感情が湧いたら、「考えた」「感じた」と気づいて、また鼻先の呼吸に意識を戻す。
マインドフルネス瞑想では、よくあぐら座りして瞑想しているシーンが紹介されますが、あのシーンのほとんどがヴィパッサナー瞑想をしていると考えてよいでしょう。
なぜ瞑想に挫折する人が多いのか
ここ数年、日本でも、マインドフルネス瞑想が集中力アップや心の安定に役立つということで興味を持ち、実践を始める方が増えています。しかしその一方、「何日か試してみたが、結局やめてしまった」という方も少なくありません。その理由としてよく筆者が耳にするのは、「しばらく続けてみたけど、目立った効果が感じられない」「だから忙しさに紛れていつの間にかやらなくなった」といったモチベーション低下に関わるものです。また中には「瞑想を続けても無になることができないので、自分を責めてしまって嫌になった」という声もありました。
さてヴィパッサナー瞑想を含むマインドフルネス瞑想は、継続することで集中力が増したり(*1)、怒りや不安といったネガティブ感情が低減して心が穏やかになったり(*2)(*3)と、メンタル的に良い効果が得られることは既に医学・心理学分野の論文では数えきれないほど多数報告されています。
*2 平野美沙、湯川進太郎 マインドフルネス瞑想の怒り低減効果に関する実験的検討 2013;84:93-102.
*3 春木豊、石川利江ら 「マインドフルネスに基づくストレス低減プログラム」の健康心理学への応用 健康心理学研究 2008;21:57-67.
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