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こちら「メンタル産業医」相談室

実は「無」にならなくていい。マインドフルネス瞑想の本当のコツ

「無常」を体験することで心がラクになる効果が…

 しかしそれらの効果は瞑想の継続によって、ゆっくり生じてくるものであり、まさに「牛歩のごとく」です。私はマインドフルネス瞑想を数年にわたって継続していますが、日々如実に成果を感じるというわけではありません。瞑想をしても心のザワザワが治まらないこともありますし、一時的に気分が落ち着いてもまたイライラしてくることもよくあります。

写真はイメージ=(c)Antonio Guillem -123RF

 しかし「そういえば何となく心が安らぐ時間が増えてきたかも」「怒りや不安を感じても長引かなくなったかも」といった実感も確かに存在します。このスローでファジーな効果こそが「瞑想は心の筋トレ」と評されるゆえんだと感じている次第です。

 この心の筋トレを挫折せず根気よく継続させていくには、マインドフルネス瞑想の奥にあるブッダの教義を理解しながら行うことがコツだと考えています。残念ながら欧米流のマインドフルネス瞑想法だけでは、この教義にほとんど触れることがないため、なぜ鼻先の呼吸に意識を向けるのかという基本的な意義・目的が分からないまま瞑想をすることになり、継続するモチベーションが保ちにくくなる人が多いのです。

「無」になろうと頑張る必要はない

 もともとマインドフルネス瞑想は、2500年前にブッダが心の苦を滅するための「八正道」と呼ばれる教義の中で、心のトレーニング法として創造された方法でした。ちなみにブッダというと仏教の祖というイメージですが、当時ブッダが語っていた内容は、非常にクールで理にかなった心理学・哲学に近い内容です。仏教に詳しい方はご存じだと思いますが、ブッダが語った教義(原始仏教と呼ばれる内容)には、現在の仏教ではおなじみの○○菩薩や○○観音、○○如来といった「拝むだけで助けてくれる」類のスーパーな仏様たちは一切出てきません。これらは後の世で中国大陸にて様々な宗教がミックス&アレンジされて出来上がった大乗仏教の思想体系です。

 2500年前にブッダが語った内容は、「苦を滅するための理論」とその理論を身に付けるための瞑想法が中心でした。ブッダが説いたのは「人生の苦が生じてくる仕組みを知り、自分自身で心を整えて鍛えていくことで苦しみから逃れることができる」という自己鍛錬の理論と方法だったのです。この理論体系は非常にシンプルでかつ合理的。瞑想とともに実践することで、現在にも十分生かせるストレス対処法になると筆者は考えます。ここではその基本的な理論の一端を紹介しますので、読者の皆さんが瞑想を継続する一助になればと思います(※本記事で紹介する内容は、仏教という宗教を強要するものではなく、心理学・哲学的な理論としてご紹介しています)。

 まず押さえておきたいのが、「無常」という考え方です。日本人は無常と聞くと「はかないもの」とセンチメンタルに捉えがちですが、ブッダが示したのは、「あらゆる物事は必ず変化し続けている」というシンプルな内容です。そのため「いつも同じ」でいよう、今の状況をずっと継続させたいとこだわると、それが執着になって心の苦になっていきますよ、というものです。

 つまり「いつも同じように承認されたい」「いつもずっと美しく、若くありたい」「いつも楽しく快適でいたい」などと「無常」と逆行した欲望を持てば持つほど、苦しみにつながっていくということ。また逆に「無常」であるからこそ、今現在、嫌なことやつらい状況が生じていたとしても、状況は刻々と変化していくのだから、いつも同じ苦しみやつらさが続くわけではない。だから過剰に未来のことを心配したり、過去のことを後悔したりするのはやめて、今ここに心を集中して今やるべきことを前向きにやっていけば、いずれ状況も変化していきますよ、とブッダは説いたのです。

 この「無常」を如実に体験できるのが、ヴィパッサナー瞑想です。この瞑想を始めると、意識は1分と鼻先にとどめることができないのが普通です。思考がどんどん湧いてきて、つい仕事のことや人間関係のことなどが浮かび、それに伴って感情が出てきます。時には怒り、イライラ、不安、心配といった感情も出てくることがあるでしょう。こうした思考や感情が生まれたら、その思考や感情に一時は意識がとらわれますが、そのたびに気づいて、再び呼吸に意識を戻します。

 「あ、思考していた」「怒りの感情が湧いた」などと気づいたら、それ以上その思考や感情について思いを巡らすことをやめ、再び鼻腔を空気が通る感覚に意識を戻すのです。多くの人が誤解しているのですが、ヴィパッサナー瞑想では、「無」になろうと頑張る必要は一切ありません(というか、特別な修行を続けていない限り、人間はそうそう簡単に無の境地にはなれないものです)。「己の感情や思考に気づいたら、とらわれるのをやめて鼻先に戻る」を淡々と繰り返していく中で、瞑想者はブッダが説いた「無常」を実体験していきます。

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