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タイ洞窟救出劇から マインドフルネス瞑想を考える

第26回 なぜ少年たちは心の平静を保てたのか?

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 しかしなかなか水位が下がらず時間が刻々と過ぎていく中で、エカポンコーチは、彼らに祈りと瞑想を行うようにいざなったようです。彼は同じインタビュー記事の中でこう語っています。

 “祈りは、少年たちが私の家に泊まるときのお決まりの行為になっていて、就寝前には私は彼らを祈りにいざないます。祈りは私たちに良い眠りを与えてくれますし、私たちが他のことを考えることをストップさせてくれます”(*3)

 またエカポンコーチは祈りと瞑想だけではなく、少年たちと交代で壁に穴を掘って脱出口を作る作業を行ったり、「頑張れ、頑張れ」と声を掛け合ったりしたとも話しています。

タイ北部のタムルアン洞窟から救出された少年を乗せたと見られる救急車

 日ごろから信頼しているコーチが誘導する祈りや瞑想と、希望を紡ぐ効果のある共同作業との相乗効果によって、少年たちの心は過剰な心配や恐れに支配されずに済んだのでしょう。

 エカポンコーチが洞窟の中で少年たちと実践していた祈りについての詳細情報は取得できませんでしたが、瞑想はエカポンコーチの人物像のところでも触れた「ヴィパッサナー瞑想」のようです。

 ヴィパッサナー瞑想は、マインドフルネス瞑想の一つとしてもよく紹介されている瞑想法で、そのやり方を簡単に説明すると次のとおりです。

(1)床に座布団や布を敷いてあぐら座に座り、背筋を伸ばす。あぐらがかけない環境のときは、椅子に背筋を伸ばして座る。手は膝の上にそっと重ねて置く。

(2)目を閉じて、鼻から息をゆっくり吸い込みながら、鼻先を意識する。空気が鼻腔を通る「感覚」を最も感じやすい場所をひとつ決めて、そこで呼吸の空気の流れを感じる。

(3)空気が入ってきたこと、そして出ていくことを鼻先の一点で「感じ」そして「呼吸をしていることに気づく」。

(4)途中で思考や感情が湧いたら、「考えた」「感じた」と気づいて、また鼻先の呼吸に意識を戻す。

 しかし冒頭にも書いたように、この瞑想をひたすら続けていても、なかなか目立った効果が感じられないという人も少なくありません。それどころか「無になることができない」と自分を責め、瞑想が苦痛になってくる人もいるようです。

 筆者は、やはりこの瞑想法を創造したブッダの思想体系をある程度理解しつつ、瞑想を実践していくことが、瞑想を長く継続するためのポイントだと考えています。

 実はヴィパッサナー瞑想は「無になること」を目標とする瞑想ではないのです。なぜ思考や感情に気づくたびに、鼻先の呼吸に意識を戻すのか? これらはブッダの思想体系をある程度理解しておくと、非常に腑に落ちます。そうすることで、なぜ瞑想を継続することで心が成長し精神力が形成されていくのかも、実感することができます。

 次回はこのヴィパッサナー瞑想の詳しいやり方とともに、瞑想効果を高めやすくなるブッダの「苦を滅するための思想体系」を心理学的観点から探ってみたいと思います。エカポンコーチが少年時代から実践してきた本格的な瞑想修行には到底及ばないとは思いますが、私たちもマインドフルネス瞑想の実践と理解を通じて彼の発揮した精神力やリーダーシップ力の片鱗でも身に付けていくことができたらいいですよね。どうぞお楽しみに。

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奥田弘美(おくだ ひろみ)さん
精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント
奥田弘美(おくだ ひろみ)さん 1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と体の両面からサポートしている。著書には「1分間どこでもマインドフルネス」(日本能率協会マネジメントセンター)、「何をやっても痩せないのは脳の使い方をまちがえていたから」(扶桑社)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。

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