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こちら「メンタル産業医」相談室

タイ洞窟救出劇から マインドフルネス瞑想を考える

第26回 なぜ少年たちは心の平静を保てたのか?

 奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家

 ご存じの方も多いと思いますが、マインドフルネス瞑想のルーツは2500年前にブッダが編み出した瞑想法にあります。ブッダが創造した瞑想法はその教義とともにタイやミャンマーといった上座仏教国で主に受け継がれてきましたが、1960年代にその瞑想法が欧米に伝わり、医療やビジネスの現場で活用されたことで広く認知されるようになりました。

 このエカポンコーチが少年たちに指導したのは、本家本元の上座仏教国タイの仏教式瞑想法であったため、マインドフルネス瞑想が一部のメディアで再注目されたようです。

サッカーコーチがどうやって少年たちの心の平静を保ったのか?

 さて筆者は自分自身がマインドフルネス瞑想を愛好していることもあり、このコーチがどのような人で、どんなふうに洞窟で瞑想を指導し、少年たちの心を平静に保っていたのだろうと非常に興味を持ちました。そこで、様々な国内外のウェブサイトを個人で調べられる限り検索したところ、次のような情報が得られました。

 まずはコーチのエカポン・チャンタウォーンさんの人物像について。

  • エカポンコーチは子供の時に病気で両親を失った。その後は祖母に育てられながら、少年修道僧として出家していたことがある(*1)
  • タイは上座仏教国であるため、出家期間中はヴィパッサナー瞑想を日々実践していた(*1)
  • 現在は清掃員として働いているが、今も人々に瞑想を指導している(*2)
  • 彼は酒を飲まず、タバコも吸わず、代わりに空き時間を活用して、サッカーチームの少年たちの心身のトレーニングを行い、練習後は少年たちを家まで送り届ける(*2)
写真はイメージ=(c)chadchai rangubpai-123RF

 タイやミャンマー、スリランカなどの上座仏教国では信心深い在家の仏教徒はブッダの示した五戒(盗まない、殺さない、ウソを言わない、邪淫しない、酒・ドラッグをやらない)という戒律を守りながら生活しています。その仏教徒の上に立つ僧侶は五戒だけではなく、もっと多い227もの戒律を守ってストイックな修行生活を行っています。上座仏教の僧侶は妻帯をせず私有財産も持たず、すべて民からの布施によって生活を賄いながら、瞑想を中心とした厳格な修行生活を送ります。そのため民衆からも非常に尊い存在として崇められているといいます。

 エカポンコーチは、現在は僧侶ではないものの、素晴らしく高潔でかつ強靭(きょうじん)なマインドの持ち主であり、思いやりにあふれた人徳の高い青年であることが、上記の人物像からうかがえます。

 エカポンコーチが真っ暗闇の洞窟の中で、自分自身の冷静さを保つだけでなく少年たちに瞑想を効果的に実践させることができたのは、長年にわたる仏教への深い造詣と僧侶時代の修行によって培った高潔な人間性と忍耐力が背景にあったからだと思われます。

 つまりただ単に瞑想の実践だけで、あの少年たちのメンタルを安定させる効果を得たと捉えるのは間違いであり、彼の仏道修行によって形成された人徳と少年たちとの強い信頼関係があったからこそ成功したと考えるべきでしょう。

 もちろんエカポンコーチが少年たちを洞窟に連れて行ったという点では、リーダーとしての安全配慮に関わる判断ミスがあったことは否めません。しかしながら少年たちの親族は誰一人として彼の非を責めないどころか、レスキュー部隊に「自分を責めないでください」というコーチに宛てた手紙まで託したという報道もありました。こうしたエピソードは、いかにエカポンコーチが日ごろから子供たちを親身に誠実に指導し、親たちにも感謝されていたかを物語っています。

彼らがやったであろう「ヴィパッサナー瞑想」とは?

 8月22日に米国のABC Newsでは、エカポンコーチと少年たちのインタビューが公開されました。その中でエカポンコーチは、次のように語っています。

 “洞窟の中に閉じ込められたと悟ったとき、私はまず自分自身の落ち着きを回復しようと努めました。そして子供たちには『閉じ込められた』とは話さないようにして、ポジティブなことだけを言いました。私は彼らに『洞窟の中の水位が下がって外に出られるようになるまで、私たちは少しだけ長く待たないといけない』と伝え、彼らがパニックにならないようにしました。もし『閉じ込められた』と言えば、彼らはパニックになっていたでしょう”(*3)

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