仕事はできるのに「困った社員」…休日や夜中のメールはやめてほしい!
第34回 気づかぬうちに残念なパターンに陥らないために
奥田弘美=精神科医(精神保健指定医)・産業医・作家
これら3つのどのパターンであったとしても、長時間残業が連続した揚げ句、過労死やそれに準ずるような労災が発生してしまったら全て会社の責任になってしまいます。特にこれからは働き方改革によって「時間外労働の上限規制」が設けられ(*1)、定められた残業時間の上限を超えると罰則の対象となるため、過重労働が継続していることは会社としてはハイリスクにほかなりません。長時間残業をせざるを得ない過剰な業務量や無理のある納期設定などはもちろん会社側に大いに問題がありますが、上記3パターンのように個人の仕事のやり方や性格に大きく起因している場合は、ご本人の意識改革が大きく必要になってきます。
【ケース4】休日や夜中にメールを何通も部下に送り付ける社員

仕事はできるのに会社や人事を困らせる社員の4ケース目は、「休日や夜中といった勤務時間外にもかかわらず、しょっちゅう部下にメールを送り付ける上司」。これも非常に問題となる場合が多いです。なぜなら部下のメンタルや体調に悪い影響を及ぼすからです。
部下にとっては、夜や休日のリラックスしている時間に上司から仕事のメールを受け取ると、たとえ返事は急を要さないとしても、頭の中は仕事モードに切り替わり、休息を続けることができなくなってしまいます。そのメールを送ってきた上司の地位が高ければ高いほど、たとえ「急ぎではないから時間のあるときにやっておいて」という内容であっても、やはり部下には忖度(そんたく)する気持ちが働いて、休息を犠牲にして仕事をしてしまうものです。
そんな状況が続けば十分に休息時間やリラックスがとれなくなり、自律神経系の弱い人や育児や介護でプライベートに余裕のない人などは特に心身が不調になってしまいます。産業医面談でも、こうした状況が何度も続いた結果、「スマホが震えるたびに動悸(どうき)が止まらなくなってきた」とか、「家に帰っても緊張がとれずに眠れなくなった」「めまいや頭痛がひどくなった」などと訴える社員に何人も出会ったことがあります。
こうした行動をする上司側の原因は、次の2つに分かれるようです。
まずは、心配や懸念が浮かぶたびに部下に確認して安心したい心配性タイプの上司。これは前項のケース3のパターンともリンクしますが、とにかく心配性でかつ完壁主義のため、ふと心配や懸念が浮かぶとすぐにそれを払しょくすべく状況を確かめたい、対策をとりたい、と勤務時間外であっても、部下に連絡してしまうのです。
もう一つのタイプは、「忘れたらいけないから、覚えているうちに」と備忘録代わりにいつ何時でもメールを無神経に送るパターン。どちらのタイプであったとしても、「勤務時間外に不用意に仕事のメールや電話をするのは、部下のメンタルヘルスに非常に悪い」ということを人事や上司からしっかりと説明して理解してもらい、不要不急の連絡以外は勤務時間外には行わないように指導していく必要があります。
以上、2回にわたって「仕事はできるのに、会社から困った社員と認識されてしまう人のパターン別対策」を産業医の立場からご紹介しました。せっかく頑張って成果を上げても、「困った社員」になって評価を相殺されないためにも、本稿がご参考になれば幸いです。
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精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント